表題番号:2013A-6258 日付:2014/03/19
研究課題地域資源データベースを用いた減災まちづくりの支援技術と計画制度開発の基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 有賀 隆
研究成果概要
1.はじめに
本年度の特定課題A(一般助成《交付上限額30万円》)研究では、建築・都市計画分野における減災まちづくり研究推進のため「居住地域の安全性を段階的に高める都市・集落の漸進的な整備誘導と減災まちづくり計画の研究開発」のための事前の基礎調査と課題分析・整理を行った。
基礎調査と課題分析・整理に際する研究視点は以下の2つに要約できる。
(1)既成市街地や集落地域の緩やかな移転と再編を可能にする長期的な整備誘導の計画と事業の課題点の抽出と整理
(2)またそれを担保する法制度の調査研究と計画・事業手法に関する現状の問題点の抽出と整理

2.研究成果の概要
研究対象地域に、内陸都市の事例として福島県白河市を、また沿岸都市の事例として宮城県名取市閖上地区を選定し、それぞれの被災地において都市基盤の構成、被災前の市街地構造、産業基盤と土地利用、地震破壊/津波浸水による建物と生活機能の被害程度等の基礎データを調査、収集し、それらを基に減災まちづくり計画の基礎的条件の整理と分析を行った。これらの地域資源を地理空間上で相互に重ね合わせて視覚化するデータベースの仕組みと方法を開発し、試行実験を行った。とりわけ将来の減災まちづくりの計画単位・事業スケールを念頭におき、市街地空間を計画的視点からまとまりのあるスケールとして捉え、そこで形成される空間像や居住環境の質、性能・機能を合理的にアセスメント(評価)する指標の抽出と検討を行った。

フェーズ1:対象被災地の地域資源データベース構築のための基礎調査と分析方法の検討
減災まちづくりのための計画資源は、巨大な自然災害による人的・物的・社会的な被害を軽減するまちづくりの検討するプロセスにおいて、CG画像や3次元都市模型を用いたまちづくり目標像のシミュレーションを通し視覚化され、都市全体の空間環境や居住者ひとりひとりの住環境にどのような影響と変化をもたらすのか、選択可能な複数の減災まちづくりの計画シナリオとして検討することを通して抽出され、指標化することができる。

白河市の事例では、市民・住民まちづくりワークショップを開催し、住民・市民、関係権利者、建築・都市計画専門等による市街地の空間認知の特徴を描画(イメージマップ調査)によって把握するとともに、減災まちづくりの目標像を地区スケールのまちづくり計画へ反映し、地区スケールの減災まちづくりが市街地全体として有機的に協調化されるための計画支援システム(案)の検討と試行を行った。具体的には、旧城下町中心市街地において進行中の旧奥州街道沿道の減災・歴史再生まちづくりの事例を基に、明治・大正・昭和初期の建築の保全、再生のための計画指標と基準を立案し、それに基づくまち並み再生のVRLM映像を製作した。地区スケールの減災に必要な木造老朽家屋の更新や、細街路・接道不良街路の解消と沿線の建築更新などを両立させる地区まちづくり計画を想定し、ワークショップ参加者(白河市役所、(株)楽市白河、(NPO)しらかわ建築サポートセンター、歴史的風致維持向上計画協議会(ほか各協議会)、本町・北裏地区まちづくり協議会(ほか各地区まちづくり協議会)、早稲田大学有賀研究室など)が将来の沿道空間を仮想体験することが可能となるシミュレーション映像を製作し、個々の建物ごとに進む漸進的なまちづくりの成果を逐次反映する計画支援技術として試行し、その有効性を確認した。

フェーズ2:減災まちづくりの担い手組織と地域事業の仕組み、関連法制度開発ための基礎調査と課題分析・整理
減災まちづくりの担い手組織と事業主体との連携の仕組みをマッチングプログラムとして構築するための社会的仕組み開発に向けた基礎調査と課題分析・整理を目的として、まずは対象地域の住民、まちづくりNPOや協議会組織との協働で、被災地コミュニティへの将来の実装を目指す支援プログラム開発のための基礎的課題と条件を整理した。特に、発災時の避難路ネットワークの事前構築と、伝統産業や歴史風致など地域固有のまちづくり資源を活用した減災市街地設計の課題と可能性について検討分析を行った。

名取市閖上地区の事例では、本研究の連携研究者・永野聡が中心となった復興支援活動を通し、「民主導型の『復興』まちづくり」の重要性が言及されその具体的な取り組みとして産業復興・雇用創出の場を提供する事が急務であるとの地域ニーズを基に「ゆりあげ港朝市(以下、朝市)」の復興が大きな役割を果たしていることが明らかにされた(「ゆりあげ港朝市を中心とした地域復興の取り組み」、2013年度日本建築学会大会(北海道)都市計画部門研究協議会、「復興のプラニングⅠ「復興計画」から「まちの再建・再生」へ」、pp.49-52、2013.08、永野聡、日詰博文、山田俊亮)。この閖上朝市は30年以上、地域住民や地域外の人々に愛された象徴的な場所であるが、津波被害で全てを失った。そして2年2ヶ月の月日を経て再建され、2013年5月4日(土・祝)にプレオープン(グランドオープンは12月を予定)を迎えた。プレオープンの期間(3日間)こそ大盛況(入込客数:10,000~15,000人/日)であったが、まわりの住宅等も全て流され、普段は、人の気配すら無い場所であるため、定常的に地域内外の利用者が来訪できる地域の社会的な仕組みづくりが課題であることが明らかになった。そこで、朝市施設の運営管理に関する業務を行う新規の事業体「プラットフォーム閖上」を組織する事とし、施設の管理運営の組織としてだけではなく地区全体としての復興と減災まちづくりを牽引する役割も位置づけた。このことは、減災まちづくりの地域資源として社会的なプラットフォームの形成と継続的活動の支援の仕組みが不可欠である事を意味しており、いわゆる社会関係資本の再建の重要性が明らかになった。行政主導により、都市基盤としての防災機能を整備し、後の住宅等の建設、住民一人一人の生活が再建されるまでには、非常に長い年月を要する。その中、本地区では、朝市が再建され、人々が集まる『場』が民主導で形成され、このことが今後の減災まちづくりを牽引する重要な計画プラットフォームになることが明らかとなった。

3.今年度の研究成果に基づく今後の研究発展と計画
一連の調査・研究ならびに対象都市でのワークショップを通し、地域コミュニティが重視する減災まちづくりの目標像を地区特性に対応した総合的なまちづくり目標として統合化し、これを都市域全体の市街地空間像形成の複数シナリオのモデルとしてシミュレーションした。これを基に本研究目的の地域資源データベースを用いた減災まちづくりの支援技術と計画制度開発の基礎的研究に関する課題分析・整理を行うことができた。
他方、今年度の研究調査では、被災地での復興まちづくりの事業進捗の制約や現地での調査活動範囲の制約などにより、当初の研究計画で目指していた高台移転後の居住地エリアと農地や海、港湾との関係の把握には至る事ができなかった。また発災時の避難のための高台へのアクセスと海浜・波浪の様子を見通せる眺望の確保、また従前の漁村集落内での隣地との相隣環境の保持に加え、営農・営漁に必要な農機具・漁具置き場など共同利用空間の在り方などに関する事例地域での基礎調査とこれらの特性の把握についても居住者ニーズの予備的調査を行うことができず、今後の研究課題として残った。
今後、今年度の本特定課題A研究の成果を基礎とし、また上記に示した研究課題への再取り組みを含み、東日本大震災被災地ならびに今後の津波被害が想定される東海、東南海の沿岸地域を対象とした、今後の減災まちづくりの支援技術に関する実践的研究を目指して、2014年度に公募予定の科研費補助金・基盤研究(B)一般への申請準備へと継続・発展させたい。