表題番号:2013A-6257 日付:2014/04/09
研究課題加熱・徐冷プロセスを利用した銅製錬スラグからのモリブデン回収に関する新規法の提案
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 所 千晴
研究成果概要
本研究では,銅製錬スラグからモリブデンを回収することを目的として,スラグを加熱しさまざまな条件で冷却して,モリブデンを特定の相に濃縮,結晶化させ,その後粉砕・物理選別により回収することを試みた。手法としては①:モリブデンの硫化・徐冷によるMolybdenite(硫化Mo)の結晶化および浮選によるMolybdeniteの回収,②:徐冷によるモリブデンのスピネル化および磁選によるモリブデンを含むスピネルの回収を検討した。
まず粉末Fe,Fe2O3,非晶質SiO2を混合し,るつぼに入れ電気炉で1300℃で溶融したものを水砕し,不純物を含まない模擬スラグを作製した。これは,不純物によるモリブデンの硫化反応が阻害される可能性を取り除くためである。これにMoO3試薬を添加し,スラグのモリブデン品位を1.25,1.50,1.75%となるようにしたのち,それぞれのスラグにPyrite(モリブデン1molに対して硫黄が5mol)を添加し,電気炉によりAr雰囲気,1300℃にて1時間30分加熱したのちに3℃/minで冷却した試験を実施し,Molybdeniteの生成を試みた。分析にはXRD(リガク,RINT UltimaIII)および,SEM-EDS / MLA(FEI,Quanta 250G)を用いた。その結果,XRDによりモリブデン品位1.50%および1.75%のスラグではMolybdeniteの生成が確認できたものの,1.25%のスラグではMolybdeniteが生成しなかった。実際のスラグはモリブデン品位が1.0%未満であるため,Molybdeniteとしての回収は難しいことが示唆された。また,モリブデンはMolybdenite以外の形態として,モリブデンの多くが磁性を持つスピネルフェライトとして存在していることがSEM-EDS/MLAの結果より確認された。
このため,製錬所スラグにおいて,磁性を持つスピネルフェライトを回収することを目的として硫化を伴わない加熱・徐冷実験をMo品位0.2%,1.0%のスラグで実施した。特に冷却速度のスピネル結晶サイズへの影響をみるため,冷却速度を3℃/min,10℃/minと変化させて行った。分析には光学顕微鏡(キーエンス, VHX-500F)を使用した。
冷却速度が速いほうが,生成したスピネルの粒度は小さいことが確認された。湿式磁選は少なくとも数十μm以上のサイズを必要とするため,磁選に用いるには冷却速度を遅く,好ましくは3℃/min程度とする必要があると確認された。また,Mo品位が高いほうがスピネルのグレインサイズも大きくなる傾向があることが示された。
そこで本実験でもっともスピネルのグレインサイズが大きかったMo1%,冷却速度3℃/minのスラグの湿式磁選を実施した。2Lの手付きビーカーに水を1L,ヘキサメタリン酸ナトリウムを0.5g,-38μmに粉砕したスラグ5g入れ,スターラーと攪拌棒を用いて良く攪拌・混合した。これを金属製のバットに移し,1000Gのハンドマグネットを用いて磁選した。この結果,Mo品位3.2%の磁着物が得られ,Moの回収率は70.6%であった。
スラグ中のMoを硫化物として結晶化するためには一定のMo品位が必要であることが確認されたため,Mo品位1%以下のスラグ中のMoを硫化物として浮選で回収するのは困難であるとみられた。しかしながら,Moは結晶化により大部分がSpinel化して存在することがわかり,これは磁選により回収が可能であった。Spinelのグレインサイズは冷却速度を遅くすることで大きくなることが確認されたため,スラグの冷却速度を制御することで磁選での回収率が良くなる可能性が示唆された。