表題番号:2013A-6253 日付:2014/03/06
研究課題Siイオン注入によるダイヤモンド基板中Si-V発光センターの作製と量子情報通信のための単一光子源への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 谷井 孝至
研究成果概要
 ダイヤモンド単結晶中のカラーセンタは古くからダイヤモンドの色を決定する欠陥として研究されてきた。本研究では、中でもケイ素と原子空孔からなるSi-Vセンタに着目し、これを量子情報通信のための単一光子源として応用するために、ダイヤモンド単結晶中にケイ素1原子とそれに隣接する2個の原子空孔を、研究者の独自技術であるシングルイオン注入法を用いて配列形成する手法を試みた。具体的には、ダイヤモンド表面にケイ素原子を1原子ずつ注入し、このイオン注入によって生成される原子空孔と注入されたケイ素原子とを熱処理によって結合させる。注入位置にSi-Vセンタが形成できたかどうかの確認は、共焦点顕微鏡を用いたホトルミネッセンスにより行い、負に帯電したSi-Vセンタからの波長738nmの発光を観測することによって行う。また、共焦点顕微鏡を用いて、アンチバンチング計測を行うことによって、ケイ素イオン注入位置に単一のSi-Vセンタ、すなわち単一光子源が生成されることを確認する。このために、イオン注入と熱処理条件を探索した。
 1スポットあたり1000個のケイ素イオンを集束イオンビーム装置(60keV)を用いて注入し、10%水素フォーミングガス中で1000℃、1時間の熱処理を施した。この結果、共焦点顕微鏡の分解能に匹敵する500nm間隔で、Si-Vセンタを配列形成することに成功した。また、ホトルミネッセンスにおけるSi-Vセンタからの発光強度は1スポットあたりのケイ素イオン注入量に比例した。このことは、上記の熱処理条件において、注入したケイ素イオンおよびイオン注入によって導入された空孔欠陥は複合欠陥をとるよりも、Si-Vセンタとしての構造、すなわちdivacancy構造になりやすいことを示唆している。
 一方、共焦点顕微鏡でのホトルミネッセンス観察前に熱混酸処理およびアンモニア過酸化水素水処理を施すと、表面のコンタミネーションが除去されて、ホトルミネッセンス計測において背景光が低減した。これにより、1スポットあたり20個という極めて少数の原子を注入した位置からの発光も捕捉することができた。しかも、配列中の0.5%程度のスポットで、この発光が単一のSi-Vセンタが生成されていることを実証した。
 現時点では、0.5%程度と生成率は低迷しているが、本研究での成果は、①イオン注入と熱処理によってSi-Vセンタを形成できること、②イオン注入によるSi-Vセンタの生成率は一定でドースに比例すること、③熱混酸処理およびアンモニア過酸化水素水処理がダイヤモンド表面からの背景光除去に有効であること、④1スポットあたりに20個程度のケイ素イオンを注入すれば単一のSi-Vセンタ、すなわち単一光子源を形成できることを実験的に実証したことである。