表題番号:2013A-6243 日付:2014/03/22
研究課題積分項を伴う反応拡散方程式の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 山田 義雄
研究成果概要
 
 数理生態学に現れる重要な微分方程式の一つにロジスティック型反応拡散方程式がある.これは生物種の個体数密度 u の変化を記述する方程式で
(1) u_t=dΔu+u(a-f(u))
の形に記述されるものである.このタイプの方程式の解について興味深いのは、時間的あるいは空間的な非一様性を伴う時空パターンが観測されることである.このようなパターンは生態学的には、棲み分け現象や周期的な個体数変動を意味し、その出現メカニズムを理解することは数学的にも生態学的にも面白いテーマであり、近年活発に研究されている.ただし、従来の研究は(1)のような局所項のみで記述される方程式に限定されていた.しかし、実際の生物の移動・拡散においては、視覚、聴覚の効果が重要な役割を果たすことも多いし、なかには生物種が出す化学物質が影響をもたらすことも多い.このような状況を考慮すると、定式化にあたっては非局所的な相互作用が重要になり、(1) の方程式は
(2) u_t=dΔu+u(a-f(u)-k*g(u)), ただし k*g(u)(x)=∫k(x,y)g(u(y))dy
の形の、積分項を伴う反応拡散方程式となる.
 本研究においては、積分核 k や、相互作用を表す f,g に適当な条件を課し、(2)に境界条件および正値関数の初期条件を設定して考える.この初期値境界値問題に対し、必ず時間大域解が唯一つ存在することを示すことができる.次のテーマは、そのような大域解の時間無限大での漸近挙動を調べることである.一般に、時間無限大での解の漸近挙動には定常問題が密接に関連する.研究成果の一つは、定常問題の正値解を構成する方法として、2通りの方法を開発したことである.一つは分岐理論に基づく基本的な方法で、もう一つは非線形固有値問題ともいうべき、非常に初等的な方法である.また、定常解が安定であるかどうかを判定することは、非定常問題の解の漸近挙動に関わる重要なテーマであるが、有効な一般論がないため、未解決である.本研究では g(u)=bu^2 かつ k が正値核の場合には、正値定常解は安定であることの証明に成功した.これらの結果は2013年5月同済大学(上海)および2013年11月京都大学数理解析研究所での研究集会において講演発表している.