表題番号:2013A-6233
日付:2014/03/26
研究課題会計の保守主義に関する理論・実証研究: 市場参加者のリスク認識の視点から
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 商学学術院 | 教授 | 竹原 均 |
- 研究成果概要
- 以下の論文2編を執筆し, それぞれについて研究発表を行い, 現在, 学術誌に投稿して審査中である.
(1)「会計の保守主義と投資家のリスク認識」
保守主義は我が国において現在, 企業会計原則の一つであるものの, IFRS, FASBの概念フレームワークにおいては, 保守主義は中立性に反するものとして会計測定値が持つべき属性からは除外されており, 討議資料財務会計の概念フレームワークにおいても注において別の観点であると言及されているのみである. 保守主義はかねてから会計情報の信頼性が損なわれる点が指摘されてきている (Hendriksen, 1982). 本研究では, 完備市場においてリスク中立確率(risk neutral probability)が一意に存在する状況を仮定し, 保守主義が株式リターンの期待値とリスクとの関係に及ぼす影響を分析する. そして, もっとも簡単化された設定としての2資産完備市場のもとで, 実証分析において広く用いられてきたBasu (1997)のTimely Loss Recognition (TLR) measureによって保守主義の度合いが必ずしも正しく測定されているわけではないことを示した. これはPatatoukas and Thomas (2009, 2010)による実証的批判を理論的に補完するものでもある. さらに, その結果, 本分析のフレームワークの中では, 保守主義が会計情報の信頼性を低下させ, 投資家のリスク認識に歪みを与えることになる構造が明らかとされた.
(2) "Family Firms, Accounting Conservatism, and Information Asymmetry: Evidence from Japan"
同研究においては, 同族企業が非同族企業と比較して保守的な会計手続きを選択するかどうかを, Basu (1997)によるモデルに情報の非対称性の一尺度であるEasley, Hvidkjaer and O'Hara(2002)のPIN Variableを付加して拡張したモデルを用いて検証した. 分析の結果, PINにより測定された情報の非対称性の度合いは同族企業において大きく, 同族企業の経営者は投資家間の情報の非対称性を緩和するために, 保守的な会計手続きを選択する傾向が明らかとされた.
なお, 上記の研究(1)については, 完備市場でリスク中立確率が一意に定まるという前提条件を緩和して, 資本資産価格評価モデル(Capital Asset Pricing Model, CAPM)に代表される均衡モデルが成立し, 対応する確率的ディスカウントファクター(Stochastic Discount Factor, SDF)が存在するjでの分析の枠組みを検討中である.