表題番号:2013A-6232 日付:2014/04/24
研究課題会計規則が企業の金融資産投資に及ぼす影響に関する実証研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 薄井 彰
研究成果概要
本研究は、会計規制、特に「金融商品に係る会計基準」(以下、金融商品会計基準という。)の改訂に応じて、企業が金融資産の投資割合を変更するかという点を調査した。有価証券の会計処理は、1999年に企業会計審議会が公表した金融商品会計基準では、(1)売買目的有価証券は時価で評価し、評価差額は損益計算書上、評価損益として計上する、(2)満期保有目的債券は取得原価により評価する、(3)子会社株式および関連会社株式は取得原価により評価する、(4)その他有価証券は時価で評価し、評価差額は貸借対照表上、資本の部に直接計上することになった。さらに、「その他有価証券」の時価評価により、税効果会計上の一時差異が生じるので、税金相当額が繰延税金負債または繰延税金資産に計上された。「その他有価証券」の時価評価は2002年3月期から適用されている。持ち合い株式は長期保有の有価証券であり、「その他有価証券」に分類される。持ち合い株式等の「その他有価証券」のボラティリティーが直接的に貸借対照表に反映することになる。とりわけ、銀行では、「その他有価証券」の公正価値評価が自己資本比率規制(BIS規制)に直接に影響する。日本の銀行は保有株式の価格変動がビジネスリスクに関連するようになった。2001年11月に「銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律」(以下、銀行株式保有制限法という。)が制定され、銀行等は株式保有を自己資本の範囲に制限された。銀行等の株式保有制限条項の施行は当初2004年9月であったが、2006年9月まで延期された。そのため、金融機関は2006年9月までに保有株式が自己資本の範囲に収まるまで売却しなければならなくなった。大規模なサンプルに基づく調査の結果、金融商品会計基準に基づく「その他有価証券」の公正価値評価が銀行株式保有制限法を介して、金融機関と企業の関係の再構築をもたらしたことが明らかになった。