表題番号:2013A-6227 日付:2014/04/10
研究課題財務業績に影響を与える顧客ロイヤリティを構成する要素の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 清水 孝
研究成果概要
 本研究は、顧客ロイヤリティが、企業の財務業績にいかなる影響を与えるかに関する研究である。本研究実施者のこれまでの研究において、とりわけバランスト・スコアカードのロジックでは、顧客満足度は財務業績にプラスの影響があることが前提となっていた。他方で、顧客満足度の向上は必ずしも財務業績に正の効果を持たないとする研究もある。また、顧客満足度の源泉には多様なものがあるが、サービス業を中心として従業員の提供するサービス、態度あるいは雰囲気などがきわめて重要であるとする研究もある。こうしたマーケティングおよび管理会計の先行研究を受けて、本研究ではバランスト・スコアカードにおける因果連鎖について次のような発見を行った。

 ①顧客満足度と財務の業績には、基本的には正の関係性がある。しかし、すでに顧客満足度が十分に高い産業・企業では、顧客満足度を上げることが困難であり、顧客満足度の上昇が財務業績につながらないことがある。また、顧客満足度の上昇による収益の増加を、そのためのコストが上回る場合には、顧客満足度と財務業績には負の関係が生じることがある。こうしたことを防ぐためには、顧客満足度を向上させるための方策によるコストと効果を推定する手法を有していなければならない。
②顧客満足度を獲得するための要素は、製品・サービスそのものの知覚品質が顧客の期待よりも上回るようにすること(知覚価値の向上)、イメージやソフトウェアの知覚品質を向上させることがあげられるが、イメージやソフトウェアの知覚品質は、顧客満足度やその結果得られる顧客の行動に直接強い影響を与える。したがって、とりわけサービス業のように、サービスの提供が人的な行動による業種では、ソフトウェアの知覚品質を高めることが不可欠となる。
③ソフトウェアの知覚品質を高めるためのひとつの方策として、従業員満足度を向上させることが考えられる。そのためには職場設計、職務設計、従業員の選抜と能力開発、従業員の報酬と評価および顧客に仕えるためのツールについて十分に考察することが必要となる。

 ③の内容は、バランスト・スコアカードの理論の中では、一般的には学習と成長の視点に設定される戦略目標に関連している。これまでの研究を振り返ると、学習と成長の視点における議論は少なかったと思われるが、とりわけサービス業においては上記の課題に取り組むことで、結果的に企業の収益性を高めていくことは疑いない事実である。
 本論文では、主としてサービス業における顧客満足度の向上とそのために必要な従業員満足度について概観してきた。しかし、サービス業であっても、販売されるサービスについて、コスト削減をしたり、革新的なサービスを開発するといった、内部プロセスに関連する戦略目標を考察することは重要であろう。また、顧客と財務、顧客と従業員といった、バランスト・スコアカード上にある個々の関係性に関する実証研究はあるものの、これら4つの視点にまたがった実証研究はない。この点について、4つの視点を縦断した研究を行うのか、あるいは顧客満足が財務成果に正の影響を与えるのを前提として、顧客満足度の源泉に関するさらなる研究を行うのかについて、今後も大規模データを収集した研究を実施することが求められる。