表題番号:2013A-6226 日付:2014/04/09
研究課題ネットワーク上の資源配分メカニズム設計の基礎的理論研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 佐々木 宏夫
研究成果概要
 メカニズム・デザインの研究は近年複数年次に渡ってノーベル経済学賞の受賞理由になるなど、最近の経済学及びゲーム理論における重要で活発な研究テーマになっている。本研究では、メカニズムデザインの中でも、価格機構が必ずしも有効に機能しない場合の資源配分メカニズムの設計問題に焦点をあててた。とりわけ、電力送電ネットワークに代表されるネットワーク環境において、①貯蔵できず、しかも②輸送(送電など)の途中で財(電力など)の減耗が生じ得る場合に耐戦略的資源配分メカニズムを設計する問題はこれまでほとんど行われてこなかった研究課題である。本研究では、有限個のノード(点)とそれをつなぐためのエッジ(送電線など)によって構成されるネットワーク構造(連結なグラフ)が与えられているときに、ノード(点)に存在している貯蔵不可能な単一種類をネットワーク上で配分するメカニズムの設計問題を研究する。
 一般に価格機構が有効に機能しない場合の資源配分メカニズムの設計において、固定価格環境などの選好が単峰型(single-peaked)で表される環境におけるメカニズムとしては、均等配分ルールを原則としながらも、(1)超過需要が存在する場合には需要が十分に小さいプレイヤーには欲しいだけの量を与え、(2)超過供給の場合には十分に大きな需要を持つプレイヤーには欲しいだけの量を与えるという形で配分を行う「ユニフォーム・ルール」が、「パレート効率性」「公平性(無羨望性や匿名性等)」「誘因両立性(耐戦略性)」という望ましい性質を満たす唯一のメカニズムであることが示されている(Sprumont(1991)など)。それに対してネットワーク上の資源配分問題の場合、輸送を通じての財の減耗が生じうることと、複数のルートでの移送があり得ることによって、均等配分の概念自体が一意に定まらない。
 本研究期間(2013年度)の研究では、上述のSprumontらの環境と異なり、ネットワーク環境ではユニフォーム・ルールを定義すること自体が自明ではないので、ユニフォームルールを定義し、それがwell-definedであることを示すための研究を行った。
 本年度得られた結果としては、①ネットワーク環境でuniform ruleを数学的に厳密な形で定義し、②各地点(ノード)における人の選好が単峰型である場合に、パレート効率的な配分が持つべき条件を明らかにし、③資源配分メカニズムの設計において課す公理(耐戦略性、パレート効率性、匿名性、無羨望性)などを定義した。さらに、この環境でのユニフォームルールがwell-definedであることを示すために、④ネットワーク構造(グラフ)が「木」であるときに、均等配分が区間として必ず存在することを証明した。これらの成果は、この研究を来年度以降にさらに進めるための一歩となる。
 なお、この研究については、2013年11月8日に早稲田大学商学学術院の金曜セミナーで発表した。