表題番号:2013A-6225 日付:2014/04/08
研究課題東アジア地域の環境ガバナンスにおけるマルチステークホルダー・プロセスの現状と課題
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 助手 島岡 未来子
研究成果概要
環境汚染、貧困、エネルギー枯渇などの深刻な社会的課題を克服し、いかに持続可能な社会を構築するかは、いまや国際社会において共通の課題である。この課題解決に向け、マルチ・ステークホルダープロセス(MSP)と呼ばれる、多様なステークホルダーの参加による対話と合意形成の枠組みが注目されている 。MSPは当初、自然資源を巡る紛争を解決するための手段として特に欧州の先進国で始まり、最近では国際社会におけるグッド・プラクティスとして推進されている(Faysse,Nicolas 2006)。
MSPの具体的事例に関する報告はこれまでに多くなされている。しかしながら、MSPを実施する際に求められるメカニズムを体系的に分析した研究は少ない(Gilmour, D.A. 2007)。特に多国間連携におけるMSPを理論的に捕捉する研究はほとんどないと言ってよい。そこで多国籍企業の経営理論を参考に分析フレームワークの構築を試みる。なぜなら、多国籍間における合意を追求するMSPを複数国間の状況を統合するシステムの一種と捉えれば、多国籍の状況を効果的に統合し運営するシステムを探求する多国籍企業の経営学の視点の導入は有効と考えられるからである。
この意味において、Choi&Mueller(1992) による,MNEs(Multinational enterprises=多国籍企業)の管理者の意思決定に必要な情報の概念化セルは有用な示唆を与える。Choi&Muellerによれば,MNEsの経営管理者は意思決定にあたり,環境変数,経営管理機能,多国籍フレームワークの3次元から構成されるセルで示される情報を必要とする。MNEsの計画策定,組織化などの経営管理機能に強い影響を与えるのは,地理的要因,すなわち複数の国であり,それに付随する環境要因を考慮して情報システムフローを設計し意思決定を行うことができる。
ここで管理者の意思決定をMSPにおける合意、経営管理機能を多様なステークホルダーと読み替えれば、多国籍間におけるMSPの捕捉として、次のフレームワークが考えられる。すなわち、それぞれの国には、市民、企業、政府といった多様なステークホルダーが存在する。そしてこれらのステークホルダーは、それぞれ政治的,社会的,文化的,法的な環境および要因に影響を受けている。多国間連携におけるMSPとは、これらの集積であり、これらが整合して初めてMSPが有効に働くと考えられるのである。
 このフレームワークを用いて、申請者は各国の状態を比較評価しうる国際的な基準として、各国の環境影響評価(環境影響評価(EIA)と戦略的環境影響評価(SEA))の法整備状況とその運用状況の分析を行った。さらに、ベトナムの共同研究機関と共に「複数の大気汚染物質による複合的な影響」アプローチにおけるMSPの現状に関する研究を開始した。