表題番号:2013A-6221 日付:2014/04/11
研究課題新規参入者の組織社会化プロセスにおける組織内部者の役割に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 准教授 竹内 規彦
研究成果概要
 近年、新規学卒就職者(以下、新規学卒者)の組織社会化に関する研究が関心の度を高めつつある(e.g., Haueter, Macan & Winter, 2003; Saks, Gruman, & Cooper-Thomas, 2011)。組織社会化とは、新規学卒者等、新たに企業などの組織に参入する者が、「組織の外部者から内部者に移行する過程」(Bauer et al., 2007, p. 707)を指す。しかしながら、既存の研究では、いわゆる「職場」レベルでの要因にはあまり目が向けられておらず、職場の上司や先輩社員、ひいては同期入社の他の新規学卒者などの「組織内部者」が、いかに個人の社会化に影響を与えているかについては、十分な検証が行われてこなかった(Ashforth, Sluss, & Harrison, 2007; Cooper-Thomas, 2009)。
 こうした中、本研究では、(1)上司―本人(新規学卒者)間、同僚(先輩社員)―本人間のそれぞれの関係性が入社後の個人の組織適応にいかなる影響を与えているか、及び(2)これら関係性のそれぞれについて、組織側ないし個人側のいかなる要因が影響しているのかの2点について定量・定性の両データから解明を試みることを目的とした。
新入社員(新規学卒者)の入社直後、及び入社6ヶ月後の2時点における縦断的質問紙調査、及び新入社員を対象とした定性的なヒアリング調査の分析から、以下の諸点が明らかとなった。
 (1)3次元の組織社会化戦術(内容的、文脈的、社会的)のうち、会社が新人社員と内部者との職場での相互作用を促す「社会的戦術」が行われている場合、入社6か月後の上司―本人(新規学卒者)間、同僚(先輩社員)―本人間の社会的交換関係(長期的な信頼関係に基づく関係性)が高まることが明らかとなった。
 (2)その一方で、内容的戦術(会社が新人に対し社内での本人のキャリア展望や育成方針などを明示的に示すこと)は、入社6か月後の上司―本人間、同僚―本人間の社会的交換関係の形成には寄与せず、直接的に新人社員の適応指標(個人-組織適合知覚)を高めていることが明らかとなった。
 (3)さらに、仮説に反し、文脈的戦術(会社が新人に対し職場外での集合研修形式のインテンシブな研修を行うこと)は、入社6か月後の新人社員の個人-組織適合知覚に対し有意な負の影響を与えており、研修が過度に行われることでむしろ、新人が入社した会社との適合感を低める可能性があることが伺えた。
 以上の結果から、(1)・(2)の発見事実については、新入社員の社会化情報源(source of socialization information)の視点から導き出された仮説を概ね支持するものであり、社会的・内容的戦術がそれぞれ異なる情報経路から新人の組織社会化を促していることが示唆された。
 しかしながら、(3)の発見事実については、既存研究の多くとは逆説的な結果を示しており、新人に対する職場外でのインテンシブな研修方法の有効性を棄却する結果であった。この点について本研究では、研修の効果をあくまで6か月後の時点までしか追跡できなかったため、より長期的な時系列でみた場合、研修の効果は単なる線形の負の関係ではなく逆U字型の曲線的な効果をもたらしている可能性も現段階では否定できない。今後、入社後の研修が長期的にはどのような効果を示すのかを長期的な縦断調査デザインから検証する必要があるという新たな課題と方向性が本研究課題の実施から示されたといえる。