表題番号:2013A-6219 日付:2014/03/28
研究課題ヒルティのビジネスモデル変革プロセスの研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 山田 英夫
研究成果概要
 本特定課題研究の方法論としては、日本ヒルティの幹部に対して、デプス・インタビュ-を数回行い、
新しいビジネスモデルの導入前、導入時点、導入後の課題について解明を行った。
 具体的には、従来の売り切り時代のマネジメントと、近年のフリート・マネジメント
(売り切らないで、必要な工具一式を貸し出すビジネスモデル)の対比を明確にすることができた。
 大企業の場合、新しいビジネスモデルを構築することは、ベンチャー企業が新しいビジネスモデルを
構築することよりも、はるかに困難を伴う。ベンチャー企業であれば、新しいビジネスモデルを考案すれば、
すぐに実践に移すことができる。
 一方ヒルティのような大企業では、既存のモデル(売り切りモデル)がある中で、いかにして
新しいモデルを追加いくか、もしくは変更していくかは、数段の難しさがあった。ヒルティの場合には、
営業面、財務面、情報システム面で、既存モデルに慣れてきた従業員からの抵抗が見られた。
 それを解決するためには、一貫した信念を持つトップ・マネジメントの実行力、
導入に際しての綿密な市場調査や教育訓練、新しいビジネスモデルに基づく行動を正しく評価する仕組み、
などが必要であることが明らかになった。
 この中でもとりわけ評価システムは、従業員が新しいビジネスモデルを受け入れようとするための重要な要因であり、
日本の大企業がビジネスモデルを転換していく際に、必ず配慮すべき点であることが認識された。
 もちろん新しいビジネスモデルは社内で評価されるだけでなく、顧客にとって、従来のモデルにはない
顧客価値の向上(ヒルティの場合には、不具合のある工具を金銭負担なく修理してもらえ、安全性の向上)も、
ビジネスモデルが受容されるためには、重要なポイントと言える。
 ヒルティのケース作成を通じて、ヒルティで起きている諸問題は、今日コンピュータ業界における
クラウドビジネスで起きている課題と、同様の性質であることが明らかになった。
 ビジネスモデルの再構築、あるいは新旧2つのビジネスモデルの共存という課題を抱える
日本の大企業にとって、ヒルティのケースは、先に成果や課題が顕在化している
重要な先行事例となることが確認された。
 なお本特定課題研究の成果物は、早稲田大学ビジネススクールケースとして、日本ヒルティ株式会社(A)、
および日本ヒルティ株式会社(B)として登録されている。