表題番号:2013A-6201 日付:2014/04/12
研究課題中国近代文学の中の日本-ベストセラー作家張資平が描いた日本女性について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 准教授 中村 みどり
研究成果概要
2014年3月15日から21日にかけて中国上海の上海図書館を訪問し、研究対象である日本留学出身者で創造社の作家張資平が上海で活躍した1930年代の作品、および流行作家であった彼に対する周囲の評価を記した記事・文章の収集を行った。まとまった同時代の張資平評である『張資平評伝』(1932年)のほか、図書館の近代文献データベースを活用し、日本では閲覧不可能である中国全土で刊行された小新聞から文芸雑誌、大学の学内誌に至るまでの張資平関連の記事を閲覧し、かつ必要箇所をコピーすることが出来た。

 現在、資料の整理を進めつつあるが、今日中国文学史研究において低い評価が与えられている張資平は、1920年代に大衆的な恋愛小説で青年読者を中心に一世を風靡した後、1930年代に日本の侵略が進み、亡国意識の高まる中で新聞連載中の彼の通俗小説は読者に見放されたがゆえ中断されたというのが定説であったが、実際にはその裏側には編集者との確執があり、必ずしも彼の通俗的な小説が読者を失った訳ではないという手掛かりを得ることができた。日中戦争前夜に発表した日本の帝国主義と天皇制に言及し、日本女性を主人公としたメロドラマ風の長編小説は版を重ねて出版されており、1930年代もなお熱心な読者を擁していたことが確認できた。そのほか、量的には少ないが、日中戦争時期・戦後の張資平に関する資料も入手し、詳細が不明であった戦時下における南京の親日傀儡政権の役職に就いた張資平の動向、また戦後「漢奸」裁判で告訴されなかったものの、世間では「漢奸」として批判されていた実態を知ることができ、日本占領地区に留まった日本留学出身者としての張資平の姿を捉えることが可能となった。
 
 今後、1920年代から1930年代にかけての張資平の作風の変化、彼を取り巻く評価の変遷を捉えた上で、日本と強いつながりを持ち日本を題材とした作品を多数残した張資平が中国の文壇で果たした役割、および読者に対する影響、また読者が作家に求めたものを分析し、今日の張資平評価に新たな視点を加えたい。