表題番号:2013A-6199 日付:2014/04/11
研究課題稼得能力喪失リスクに対応する所得補償制度および所得保障制度の再構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 李 洪茂
研究成果概要
 研究成果の一部は、論文としてまとめられた(李洪茂「アカウント型生命保険と収入保障保険 ―ライフステージ別の保障内容の変更と生命保険商品の展開―」『早稲田商学』第439号、早稲田商学同攻会、2014年3月)。主な内容は、次の通りである。
 アメリカでは、超高金利下での他の金融商品との競争という背景の中、ユニバーサル保険が導入された。つまり、アメリカのユニバーサル保険は、インフレーションの状況下での高金利選好意識が高まり、保険契約者に資産運用のメリットのある保険商品を提供し、新たな顧客を取り込むために発売された。
 それに対して、アカウント型生命保険は、超低金利下での逆ザヤ問題を解決するためには、既存の高い予定利率の保険契約を新しい保険契約に切り替える必要性があることを背景に開発されたが、超低金利状態で発売されたこともあり、資産運用のメリットを強調したものではなかった。つまり、アカウント型生命保険は、資産運用のメリットを強調して発売されたアメリカのユニバーサル保険と異なり、ライフステージに合わせて死亡保障を見直しができるという点で消費者のニーズに応えた保険商品である。
 このアカウント型生命保険を最初に発売した明治安田生命がそのシステムを特許登録したこともあり、後発の生命保険会社が発売したアカウント型生命保険は、その仕組みが少しずつ異なっている。保障分部を「利率変動型積立終身保険」の特約として添付するものとのと、「利率変動型積立終身保険」と保障分部をそれぞれ単体保険として組み合わせるものがある。さらに、第一生命の『堂々人生』でみられるように、アカウントを持たずに保障の見直しができる生命保険までが発売された。しかし、いずれの保険商品においても契約が更新されることによって予定利率が更新される仕組みであった。
 アカウント型生命保険は、独身・結婚・出産等のライフステージに合わせて死亡保障を見直して無駄をなくせる画期的保険という保険会社の説明と共に、既存の高い予定利率の定期付終身保険や養老保険・個人年金保険などを、低い予定利率に猛烈なスピードで切り替えた。この急速な切り替えにより、多くの大手生命保険会社各社は、アカウント型生命保険を主力商品とし、逆ザヤを解消してきた。
 このようにして、アカウント型生命保険の普及は、多くの生命保険会社が破たんする中で、逆ザヤ問題を解決することで、生命保険会社の経営を安定させることに大きく貢献した。しかし、アカウント型生命保険は、その仕組みが複雑であるのみならず、第1保険期間が終わると特約である保障の部分も終了し、積立部分の積立金もあまり残らないのが現実であるため、老後保障の問題点として指摘される。その結果、アカウント型生命保険またその類似の生命保険の販売を縮小または廃止し、従来の終身保険に各種特約を添付する形式に回帰する保険会社も見られる。
 一方、収入保障保険は、アカウント型生命保険と同じ機能であるライフステージに合わせて保障額が少なくなる合理的な保険であり、既存の定期保険と比べて保険料が安い。しかし、収入保障保険は、大手生命保険会社が特約として販売する事例は見られるが、既存の大手生命保険会社の営業社員に受け入られず、主契約として販売している事例は見られない。その結果、収入保障保険は、外資系を含む中小生命保険会社の主力商品となっている。