表題番号:2013A-6196 日付:2014/03/29
研究課題カンタベリーのアンセルムスと自由学芸
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 矢内 義顕
研究成果概要
 本研究は,11世紀のカンタベリーのアンセルムス(1033/34-1109年)を取り上げ,11世紀の修道院における自由学芸の問題について以下の三点から明らかにすることにあった。 第一に,自由学芸に関してアンセルムスが触れることのできた源泉,第二に,自由学芸に関する彼の基本的な姿勢,そして第三に彼の著作・思索において自由学芸がどのように用いられているのか,ということである。そしてこれらのことから,以下のような結論を得ることができた。
 すなわち,もし自由学芸が,ヘレニズム期に言われたように,「全人教育」(encyclo paideia)を理念とするならば,アンセルムスそして同時代の修道院著作家たちは,それを否定するだろうということである。彼らにとって,人間を完成に導くのは,聖霊の導きに従い,日々の祈りと聖書の瞑想・研究によって育まれる修道生活であり,自由学芸は,この修道生活を営むために用いられる手段の一つである。むろん,人間の真の完成は,この世において実現されるのではない。それゆえ,アンセルムスは,彼の『プロスロギオン』の最終章において,神よ,あなたを知り,あなたを愛し,あなたに喜びを見いだせるように,私は祈ります。もしこの世で完全な喜びを得ることができないのなら,完全にそうなる日まで,少なくとも日々進歩がありますように。この世において,私のうちにあなたの知識が増し,かの世で完成されますように。そうして,私の喜びがこの世において大きなものとなり,かの世において真に満たされますように」と祈るのである。祈祷・瞑想と緻密な論証が一体となったこの書物こそが,修道院神学者アンセルムスの真骨頂であることは,言うまでもない。そして彼の神学は,先行する諸世紀の知的な遺産・伝統(そこには自由学芸も含まれる)を継承しつつも,そこに新たな息吹を与え,12世紀の都市の学校における学問の発展への道を開くものでもあった。