表題番号:2013A-6190 日付:2014/04/09
研究課題オーストラリアにおける海上保険の実務と法制度の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 中出 哲
研究成果概要
1.本研究の目的
 本研究は、オーストラリアにおける海上保険の実務と法制度についての研究である。
 わが国では、現在、商法の第3編海商(海上保険を含む)の改定が検討されている。法制度の改革においては、研究者として、取引実態や他国の状況等も把握し、立法に向けて必要な提言を行う必要がある。
 わが国の海上保険に関する商法規定は、100年前に当時のドイツ法を参考にして制定されたものであるが、その後、海上保険の実務では、イギリスの法と慣習が世界標準となり、わが国においてもイギリスの保険約款などが広く利用されてきた。
 イギリスの海上保険法は、1906年海上保険法と判例法から形成されるが、時代遅れとの批判もある。オーストラリア他のコモンロー・諸国では、イギリスの1906年海上保険法とほぼ同一の内容の立法を定めている国が多いが、次第に、それからの変更が生じつつある。
その中で注目される国の1つがオーストラリアである。同国では、イギリス法に倣って1909年海上保険法を制定していたが、1966年に改定が行われ、その後、その批判の高まりを背景に、主として学者を中心としてその全面改正案が2001年に示された。しかし、現時点では法改正には至っていない。オーストラリアでは、イギリス法をもとにしつつ、その変更が試みられているので、わが国における立法を考える上で参考になる。
 本研究は、こうした目的をもってオーストラリアの海上保険法の法と実務を調査したものである。

2.研究の方法
 本研究では、まず、オーストラリアにおける海上保険法とその改正に関係する経過等について、文献・資料を調査した。そのうえで、2013年9月にシドニーで開催された世界保険法学会(AIDA)国際会議およびオーストラリア保険法学会大会にして、その場を利用してオーストラリアの専門家・実務家からヒアリングを行った。

3.研究の成果
(1)新海上保険法制定の見通し
 オーストラリアでは、1984年に保険契約法が制定されている。その内容は、イギリスの海上保険法や陸上の判例法を踏まえたイギリス法における種々の問題点も踏まえ、消費者保護等の視点も重視して制定されたものである。本研究を通じて、オーストラリア保険契約法に関する文献や情報を収集して、その基本的内容を理解することができた。
 一方、2001年に示された1909年海上保険法改正案は、面談した実務家・弁護士等の意見では、変更に向けた差し迫った実務上の必要が少なく、むしろ改定に保守的な意見が強く、イギリスにおいて検討が進んでいる法律改正の動きを見守ってからでもよいとの意見を多く確認した。
(2)オーストラリアの海上保険実務
 オーストラリアでは、保険会社のほか、弁護士が海上保険の実務に深くかかわっていることが理解できた。また、イギリスの実務がほぼ踏襲されていることが理解できた。注目されるべき点としては、オーストラリアではエネルギー開発関係の海上保険が重要になっていることが理解できた。
(3)人的ネットワークの形成
 2013年9月にシドニーで開催された世界保険法会議の海上保険部会では、海上保険における保険代位の諸問題をテーマとして、筆者は、日本における現状と課題を報告するとともに、全体の司会も行った。会議を通じて、オーストラリア法、ドイツ法等と日本法との相違点等を理解することができ、また、わが国の法や実務について、オーストラリアの専門家等に伝えることもできた。また、司会・発表したことにより、多くのオーストラリアの保険法学者や弁護士の知己を得ることができた。こうしたネットワークの形成は、今後の研究活動につながる重要な収穫となった。