表題番号:2013A-6187 日付:2014/04/11
研究課題コーポレート・ガバナンス、金融不祥事と企業の業績
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 久保 克行
研究成果概要
 本研究課題ではコーポレート・ガバナンスと金融不祥事の関係を実証的に分析した。粉飾決算などの金融不祥事は世界中で起きている。このような不祥事の背景にはコーポレート・ガバナンスの問題がある、との問題意識からアメリカを中心にこの分野の実証研究が進んできている。しかしながら、日本ではこのような分析は少ない。また、日本とアメリカではコーポレート・ガバナンスのあり方が大きく異なるため、日本における実証分析が重要となる。言うまでもなく、日本においても金融不祥事は社会的にも大きな関心事であり、このメカニズムを明らかにすることには大きな意義がある。特に日本のコーポレート・ガバナンスはアメリカと比較してさまざまな相違点があることから、アメリカの先行研究と異なる結果が得られる可能性もある。また、監査役制度のようなアメリカにはない制度の影響を分析することは世界的にも大きな意味を持つと期待できる。
 具体的にはコーポレート・ガバナンスが金融不祥事の発生確率に与える影響を実証的に分析した。こういった分析では金融不祥事をどのように定義するかが一つの問題となる。本研究では証券取引等監視委員会からディスクロージャーに関する課徴金納付命令勧告、刑事告発の対象となった企業をサンプルとした。対象とする期間は2005年から2009年である。これら不祥事を起こした企業とその他の企業を比較し、コーポレート・ガバナンスにどのような違いがあるかを確認する。ただ、ここで重要なのは、不祥事を起こしていない企業とただ比較することは望ましくないということである。これは産業や企業の規模によって企業のあり方は大きく異なるためである。そこで、適切な比較対象企業(マッチングサンプル)を抽出したうえで、不祥事をおこした企業と比較することが重要となる。ここで、コントロール企業(マッチングサンプル)をどのように選択するかが問題となる。選択方法の違いにより結果も異なってくる可能性がある。
 先行研究などを参考にしながら複数の比較対象企業群を抽出した。一つ目の方法は産業と企業規模をもとにマッチングする方法である。まず、不祥事を起こした企業と同様の証券取引所に上場している企業で2ケタの産業コードが同じ企業から資産規模が近い企業を選択した。不祥事を起こした企業1社につき、4社のマッチング企業を選択している。もうひとつの方法は、プロペンシティ・スコア・メソッドを用いて同等の企業を選択した。
 このデータセットを用いて分析を進めている。現在のところ、大株主がいる企業では不祥事が起きる確率は有意に低いが、経営者の金銭的インセンティブは有意ではない、という結果が得られている。