表題番号:2013A-6155 日付:2014/03/16
研究課題発達障害児に対する、課題解決スキルの分類プログラム開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 本田 恵子
研究成果概要
1 本研究の目的:発達障害児が直面するトラブル場面において、「適切なスキルを選択するために必要な判断力」を養成するプログラムを開発することを目的としている。問題行動を意志による随意運動で制御するためには、情動活動による欲求不満を鎮静化させる手段が必要になる。これまでは、ストレスマネージメントやタイムアウトによってクールダウンする方法が取られていたが、この方法はこだわりが強いPDD(広汎性発達障害児)にはうまく働かないという現場の声が多い。そのため、本研究では、彼らが素早く「納得」するための「論理」を分析することを通じて、適応行動を選ぶための判断力をカテゴリー化し、子どもたちが使いやすいことばにすることを目的とする。

2 2013年度の成果:
1)問題の種類の抽出
発達障害を持つ子ども達が欲求不満場面で取りがちな行動を教員や保護者からのインタビューおよび現場における行動観察から抽出し、上手くいく場合と上手くいかない場合に分けて、子ども達が使っている判断の根拠を分析した。分析対象は、発達障がいを持つ児童20名であり、分析内容は、学校内で生じる対人関係場面(HR,授業中の話し合い活動、休み時間の交流、給食・掃除・係り活動)でのトラブルとした。その結果、定型発達をしている児童に比べて、以下の5要素において差が見られた。人数が少ないため有意差検定はできていない。主体性(関係の開始における一方的な接近)、耐性(関係の継続における耐性の低さ)、攻撃(関係の強要の強さ)、退却(関係の解消の容易さ)、回復性(関係性の修復を試みない)。つまり、一方的に関係を開始して、失敗すると攻撃するか退却して関係の修復が行われていないということになる。
2)問題場面に対する教材の収集
 研究協力者であるバーンズがアメリカ、イギリスにおける本分野の最新の教材や取組に関する情報を収集した。傾向として明確になったのは、広汎性発達障害児に対するソーシャルスキルの行動分析が進んでいること、および心理教育的トレーニングに方向性がシフトしている点である。1970年代から特別支援教育が発達したアメリカ合衆国においては、
特別支援教育は、軽度知的障がいや発達障害児に対する特別支援学校設置など特性別のエクスクルーシブかつ包括的なサポートのための法整備、IEP(個別教育プログラム)立案および実施のための専門家の配置が進んだ。しかし費用が膨大になる関係で1990年代からはインクルシブ教育に方向転換した。普通教室で発達障害児を教育することになり、学校内のリソースルームを活用するために2000年からは短時間で教育できる形式になったと考えられる。教材は多岐に渡るが、バーンズによる分類の結果、日常生活を実施するには役立つが、理論系列が統一されておらずスキル教育も系統だっていないことが判明した。
3)教材開発の途中経過
 1)2)の分析に基づき、試案として耐性を強くし攻撃を緩和する判断基準を作成した。
これまでは、判断基準が主観的なものであったため、場面に対する客観的な視点を与える試みである。現在、認知発達段階を縦軸、(直感思考期、具体的操作期、移行期、形式操作期段階)、抽出された5要素を横軸にして適切な場面判断ができるための基準を設けるためのマトリックスを作成中である。
4)今後の展開
 1)の調査数を増加し、項目を精査する。2)の教材を系統立てる。3)マトリックスを完成しそれぞれの段階に応じた教材作成を継続する。