表題番号:2013A-6144 日付:2014/04/08
研究課題視覚による自己と社会の構成-視覚社会学の展開-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 北澤 裕
研究成果概要
 本研究は、視覚と人間ならびに社会との関連性を社会学的に考察する「視覚社会学」の一環をなすものである。これまでコンピュータやスマートフォンなどの画面を介して、デジタルで「ヴァーチャルな世界」を眺める視覚行為が、人間にどのような意義を持ちどのような効果を及ぼすのかを中心的な課題と追究してきが、この研究では、「ヴァーチャルな世界」だけではなく、同時に、実在している本当の「リアルな世界」に対する視覚行為を対象とし、実在する本当のリアルな世界において、これを直接見る視覚行為の基本的な特徴と意義はどのようなものなのかの分析を目標とした。この考察には、リアルな世界のなかで「見る」行為は社会的にどのように構成されるのかの「視覚の社会的構成」と、「見る」行為が人や社会をどのように構成するのかの「社会の視覚的構成」という、相互に補完し合う二つの分析視点を立てることができるが、今回の研究は、後者だけに焦点を絞るとともに、個々のリアルな対象や世界を見ることに特化していて見ることを主要な目的としている「観察」や「観測」、「観覧」や「見学」などの視覚的行為を取り上げ、これらの視覚的行為がその場の人や社会的状況をいかにそれぞれに特有の状態にと組み立て結晶化してゆくのかを検討した。
 具体的には、前年度までの科研費の調査で得た西アフリカマリ共和国のドゴン族の視覚文化である「ドゴン仮面ダンス」の資料にもとづき、視覚の特徴を「結びつき(コネクチオ」あるいは「接続統合(コンカティナチオネム)」として捉え、視と視の接続平面である「視のプラトー」による「出来事」の構成、「個体」の生成、「意味」の形成を「社会の視覚的構成」の一部として示した。視のプラトーとは単一で平坦なものではなく、さまざまな物事とイメージとの接続を成し遂げ多様化してゆき、「あれやこれや」のあるいは「これであれ…あれであれ」結びつける「離接的綜合 」といった視のプラトーの多様性、眺めの接続の「多視性(ポリスコピー)」が、社会や世界を並列分散的に意味づけ制作することを指摘した。また、視と視の接続だけでなく、視と音との接続にも触れ、異なる感覚の接続が「情動」の形象、つまり客体の内に捉える主体自らの情動の形を構成し、情動の空間を組み立てることを説明した。このような「接続統合」は、もののある状態およびこれを見る視のある状況の内に留まることではなく、これを乗り越え外に外にと広がり出て行く自己超出や自己展開をはかることであり、この場合、接続を構成するものおよびその刻印としての視を「記号」として考えることはできなくなることを示し、「記号」から「脱記号」へという今後の分析の道筋を付けることができた。