表題番号:2013A-6141 日付:2014/04/11
研究課題造血器の多様性に関する生物種間の比較解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 加藤 尚志
研究成果概要
動物成体の主な造血器は,魚類は腎臓,両生類は肝臓や脾臓,哺乳類は骨髄が主となる。無尾両生類アフリカツメガエル(Xenopus laevis)は偽4倍体の染色体をもちゲノム量がヒトよりも多い。このため全ゲノム解読は,現在,文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)の指定動物となっている2倍体染色体のネッタイツメガエル(Xenopus tropicalis)が先となった。両種の外観形態,発生様式などは類似し,ゲノム情報をもち成長速度も速いネッタイツメガエルは,長い歴史をもつアフリカツメガエルモデルに代替される,と期待されてきた。実際,我々もアフリカツメガエルの造血研究を進める過程で,ネッタイツメガエルのゲノム情報を頻用してきた。アフリカツメガエルの肝臓は,赤血球造血をおこなうために赤色を呈する。ところが我々は偶然,ネッタイツメガエルの肝臓が黒色であることに気がついた。そしてネッタイツメガエルの造血器は,魚類のように腎臓なのではないか?という仮説を立てるに至った。本研究ではまず,両種の肝臓,脾臓,腎臓,肺,心臓の各組織を同一条件で顕微観察し,形態的所見を比較した。その結果,肝臓と腎臓に組織像に差異が認められた。造血能の差異について解析するため,造血器候補臓器より細胞を採取し,造血因子添加培養下,実際に血球が出現するかを調べた。また造血関連分子(造血因子,造血因子受容体,血球増殖・分化関連転写因子,血球系譜特異的表現型分子)について,in silico解析で造血関連分子の遺伝子配列を確定し,PCR法によって赤血球造血関連分子群の発現を比較した。以上の一連の実験によって,両種は近縁種ではあるが,肝臓と腎臓のそれぞれの造血能は必ずしも同等ではなく,アフリカツメガエルは造血能をより一層,肝臓にシフトさせており,一方,造血能を腎臓に残している所見が得られた。しかしNBRPからのフォローアップ情報によると,今回の検討の対象となったネッタイツメガエルが完全に健康ではなかった可能性があり,今後も引き続き精査の継続し,モデル生物構築の一環としてネッタイツメガエルの情報蓄積に貢献したい。