表題番号:2013A-6136
日付:2014/04/10
研究課題1970~80年代における学術出版文化の変容に関する実証的研究:編集者のパーソナルヒストリーの聞き取り調査から
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 教育・総合科学学術院 | 教授 | 伊藤 守 |
- 研究成果概要
- 本研究の目的は、2011年度から2012年度にかけて行った「1980年代における出版・活字文化の変容に関する実証的研究」を発展させるかたちで、考察の時期を1970年代にまで広げて、学術出版活動における編集者の位置、役割がいかなるものであったか、さらに高度消費社会へと日本社会が大きく変化する中で、編集者自身がどのような問題関心の下で、いかに執筆者との関係をつくりながら、知の生産を行っていたのか、を検討することにあった。1970年代まで考察の範囲を拡大したのは、編集者へのインタビューを通じて、戦後の学問的知の変容、読者層による知の受容や消費の変化はすでに1970年代に根差しており、1970年代から1980年代にかけての通時的な射程から考察する必要性が浮かび上がってきたことによる。
こうした課題を遂行するために、本研究では、長年にわたり書評紙『週刊読書人』の編集長を務め、学術出版の歴史的経緯に詳しい武秀樹氏、月刊『ローリングストーン』(日本版)や季刊『is』(ポーラ文化研究所)の編集長を務めた七字英輔氏、さらに『美術手帖』の編集者として様々な特集号を企画した三上豊氏にインタビュー調査を行うとともに、せりか書房の編集長である船橋純一郎氏にも再度のインタビューを行った。
以上の編集者のインタビューから明らかになった諸点は次のようなものである。いずれの編集者にも共通に抱かれていたのは、仮説として想定したように、1970年代の半ばに、アカデミズムの知の変容とともに読者層の関心や志向の変化が徐々に顕在化し、新たな出版企画を出していかざるを得ない状況が生まれたということである。七字氏によれば、政治的な主張を含みつつもポップな色彩感と大胆な写真構成からなる『ローリングストーン』日本語版は若者世代のライフスタイルの変化を先取りするものであった。また伝統的な絵画や日本画の紹介を中心にしてきた『芸術新潮』とは異なり、現代美術に特化した編集の方針を貫いてきた『美術手帖』も制作者にための雑誌からより広範な読者(美術館の拡大に伴う絵画鑑賞者の急激な増加に対応している)ための紙面構成へと変化した、と述べた三上氏の発言もこの変化を裏付けるものであった。特に、『ぴあ』に代表される細分化した「情報」提供する雑誌、既存の「知識」を提供する雑誌、これらとは一線を画した「ガイド」として「美術手帖」を位置付けた三上氏の発言は、この時期の出版・活字文化の変容と多元化を象徴的に言い表している。このような雑誌文化の変化は、その後、学術出版の分野にも通底することになる。