表題番号:2013A-6134 日付:2014/04/10
研究課題チベット・モンゴル・満州の歴史と社会の総合的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 石濱 裕美子
研究成果概要
(1) 1911年のジェブツンダンパ8世の即位の儀式をダライラマ13世の1895年の即位式と比較・検討した結果、この儀式の内容は従来言われているような近代的な国民国家の元首の戴冠式などというものではなく、ダライラマ13世の王権と同じく政教一致の政治体制トップへの就任であった。

(2) ダライラマ13世の著作より、ダライラマの自称表現を抜き出して整理したところ、1911年、清朝がダライラマ13世に屈辱的な称号を授けた直後、ダライラマは自らの称号の権威の源泉を清朝皇帝から、インドの仏へと改める。これは明らかに清朝がチベットに対して帝国主義的な政策をとったことに対する明示的な拒絶であった。

(3) ダライラマ13世の著作より、チベットと中国の政体に言及する際の表現を抜き出して整理したところ、1913年の独立宣言以前は、中国とチベットの政体を並列してその繁栄を祈願していたものが、以後はチベットの政体のみを祝い中国に関する記述は消える。これはダライラマは清朝との間に確立していた関係が、中華民国との間には存在していないと認識していたことを示している。

4) 近代以前の世界において水銀は特別こ高貴な存在であるとされてきた。水銀は猛毒で、定まらない色や形を持ちながらも精錬した後には甘露となると考えられたため、これは煩悩に満ちあふれながらも修行の後には仏の意識を得る人の心に通じたからである。チベットにおいても、水銀の精錬作業は薬をつくるというだけでなく精神的な修練の意味も付せられていたものの、チベットの水銀精錬テクストが和訳されたことはなかった。それに対して18世紀無宗派運動を代表する学僧ミパンによる、浄化水銀の精錬過程を記したテクストを和訳・注解して発表した。

(4) 2013年7月23日にモンゴルのウランバートルにあるモンゴル国立大学(National University of Mongolia)で開催された、十三回国際チベット学会(13th Seminar of the International Association for Tibetan Studies)において、The Dalai Lama as the Cakravartin Raja manifeted by Avalokteshvara." という演題で発表した。