表題番号:2013A-6122 日付:2014/03/16
研究課題ノーベル賞作家ヘルタ・ミュラーにみる土俗性とモダニズム
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 准教授 山本 浩司
研究成果概要
 2014年2月にドイツ・ヴュルツブルク大学で開催される予定だったヘルタ・ミュラー国際シンポジウムでの口頭発表に向けて当初は研究計画を策定した。9月にベルリン・フンボルト大学のグリムセンター図書館ならびにドイツ語ドイツ文学科図書室を資料収集のために訪れ、同学科の主任教授で、ウルリーケ・フェッダー氏と意見交換をした。11月には、ヘルタ・ミュラーもその一人と目されるドイツ語圏の越境文学(外国出自の作家たちによるドイツ語文学)に関わる名古屋市立大学で開催されたシンポジウムに参加し、さらにヘルタ・ミュラーが広い意味で旧ハプスブルク帝国の文化圏に属する地域の出身であり、アヴァンギャルド芸術への親近性も近いことから、ウィーングループの流れを汲む現代詩人ヘルベルト・ヴィンマーを招聘して行なわれたオーストリア現代文学ゼミナールに参加して、実作家やネイティヴを含む研究者と意見交換を重ねた。
 しかし、同月になって主催者から上記国際シンポジウムを延期する旨の通知があり研究計画の大幅な変更を余儀なくされた。1年間の猶予ができたので、ヘルタ・ミュラーの土俗性とモダニズムについてより広い視野を持つべく努めた。まず土俗性に関しては、ルーマニアの風土やドイツ語の表現に及ぼすルーマニア語の影響を考察した日本語による論文を発表し、さらにそれにとどまらず、彼女の小説には工場や労働キャンプが重要な役割を果たすことから、旧東独の労働の現場を描いた生産劇や炭坑小説(フォルカー・ブラウン、ハイナー・ミュラー、ヴォルガング・ヒルビヒ)にも注意を向けることにした。その成果は、11月末に中国北京の対外経済貿易大学(UIBE)でフンボルト財団の後援のもと開催された「Green Economy and Urbanisation」で、89年前後に書かれた東独の「環境文学」についてドイツ語により発表した。また、モダニズムに関しては、彼女の小説に映画的なモンタージュの発想が顕著なことから、同じように作品のなかに映画を取り込んでいるオーストリアの作家たち(アイヒンガー、ヴィンクラー)を取り上げた論文を日本語で執筆して、今後の研究の足場を作った。