表題番号:2013A-6117 日付:2014/04/11
研究課題18世紀後半スコットランド社会とイギリス議会政治
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 松園 伸
研究成果概要
本特定課題研究においては、18世紀ブリテン議会がスコットランド社会の変容に与えた影響について詳細な研究を行った。とりわけ1747年議会で制定された「スコットランド世襲的司法権廃止法」(Heritable Jurisdictions (Scotland) Act)は、伝統的なスコットランド社会のあり方に大きな変更を加えるものであった。
 1707年のイングランド・スコットランド合同(The Union)はグレート・ブリテン王国という統一国家を形成しながらも、イングランドではイングランド法、スコットランドにおいてはスコットランド法の支配が認められ、スコットランド古来の司法制度は基本的に温存された。しかし1745-46年のスコットランド・ジャコバイト反乱によって、とりわけスコットランド北部高地地方においてなお氏族支配が続き、社会の近代化が阻害されていると考えられた。「世襲的司法権廃止法」案はロンドン政府と、近代化を望むスコットランド貴族・中産階級の合作であり、氏族族長の世襲的な裁判権を否定し、新たにイングランドと歩調を合わせた司法制度を地方において作ろうとするものであった。しかし族長らの抵抗はなお著しく、法案は多額の金銭補償を族長に与えることでようやく実現した。しかしいったん世襲的司法権が否定された後は、スコットランドは私兵制度の廃止、武装解除、高地地方の貧農の強制立ち退きと土地整理(Highland clearance)などによって急速に近代化の波に乗ることとなる。本研究ではハミルトン(Hamilton)公爵、ホープトン(Hopetoun)伯爵、ヒューム(Home)伯爵らがなお自邸内に有する私文書を含む詳細な史料調査を行い、スコットランド近代化の転機になった世襲的司法権廃止の過程を追っている。研究成果はこれまで同様、Parliamentary History, Scottish Historical Review 誌など英国の代表的な査読雑誌に投稿し、掲載を目指すものである。