表題番号:2013A-6116 日付:2014/04/11
研究課題中世イタリア南部におけるビザンティン文化の浸透
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 益田 朋幸
研究成果概要
南イタリア一帯をサーヴェイし、ビザンティンの影響下に成立したフレスコ・モザイクの調査を行なった。
 特にTursi郊外のSanta Maria di Anglona聖堂のフレスコ装飾が重要であると考えるので、ここに記す。アプシス及び身廊北壁面にフレスコは現存しないが、身廊南壁面と同西壁面には比較的保存状態のよい、創世記の諸場面を描いた12世紀のフレスコが残っている。これはほぼ同時代のシチリア島パレルモ、カッペッラ・パラティーナとモンレアーレ大聖堂の身廊を飾る創世記モザイクと比較可能である。あるいは近年修復の終了したローマ、サン・ジョヴァンニ・ア・ポルタ・ラティナ聖堂身廊のフレスコとも比較すべきかも知れない。
 サンタ・マリア・ディ・アングローナのフレスコに関しては現在も研究を継続中であるが、カッペッラ・パラティーナとモンレアーレの創世記プログラムについては、おおよその新解釈を提出することができる。天地創造に始まり、ノアの物語、アブラハム、イサク、ヤコブの物語へと続く場面選択の意味は、サイクルが「天使と格闘するヤコブ」で終わっていることから説明可能である。
 ヤコブは天使(テキスト上は神)と格闘して、神からの祝福を得、イスラエルとの名をもらう。その後ヤコブ=イスラエルは12人の男子をもうけ、それぞれがイスラエル十二部族の始祖となる。これはアウグスティヌス他の教父たちによって、十二使徒の予型とされる。つまり創世記サイクルは、十二使徒の予型で終わり、それは側廊等で展開するペテロ・パウロ伝に接続する。
 つまり旧約創世記は新約のキリスト伝に続くのはむろんのことであるが、さらにそれはキリスト昇天後の使徒たちの活躍にも自然に続くことになる。モザイクの複雑な図像群は、一貫したキリスト教的世界観、歴史観を語っているのである。
 上記以外に、南イタリア、プーリア地方ののいくつかの聖堂では、9世紀という早い時期に、聖堂西壁面に「キリスト昇天」を描く作例を確認した。ビザンティン側で失われた時代のプログラムを想像させる点で興味深い作例である。