表題番号:2013A-6108 日付:2014/04/21
研究課題安部公房に関する伝記的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 鳥羽 耕史
研究成果概要
 本研究では、安部の出生から死までの伝記的な事項を精査しつつ、その間に書かれた代表的な作品や、全集未収録の作品などについても紹介し、作家であり劇作家でありテレビやラジオや映画のシナリオライターであり、舞台の演出家でもあった安部公房という人間の全体像を捉えることを試みた。
 本年度には、安部公房についての編著を一冊、分担執筆で序文も寄せた本を一冊と、伝記調査の過程で得られた安部公房の父・安部浅吉についてのエッセイを発表することができた。また、関係者へのインタビューに関わる成果として、安部公房スタジオの女優として活躍した山口果林氏所蔵の写真、台本などの資料を、演劇博物館に寄贈する仲介者の役割を果たすことができた。この資料は、安部公房研究のみならず、現代演劇研究資料として活用されていくことになるだろう。
 来年度に向けては、ひきつづき安部公房の関係者へのインタビューや関係者が書いた文章などの調査を進め、外側から見た安部公房像を明らかにしていく。また、自ら「消しゴムで書く」と言い、私小説的な書き方を嫌った安部公房自身が書いた小説、エッセイ、自筆年譜などを検討し、周囲の証言との照合から、伝記的な事実を明らかにしていく。一方、安部の作品の変遷から見える、思想的な履歴なども同時に問題にしていく予定である。
 また、評伝の出版とは別に、出版社から安部公房に関する事典の編集も委嘱され、信州大学の友田義行助教らと共に進めていくことになった。これは五年計画ぐらいの長期的なものになるが、今年度はその最初の段階として、編集委員や執筆者を定め、項目や構成についてのプランを練っていくことになる。そのためにも、伝記的な調査だけでなく、個々の小説、エッセイ、戯曲、シナリオ、評論などの内容や背景についての調査が必要になってくるため、安部公房に関する総合的研究と題して、その長期計画の基礎固めを行っていくこととしたい。
 今回の研究費で編著を寄贈した方々には伝記調査で引き続きご協力を頂くことになるし、アメリカの二人とは5月のシンポジウムで共に発表することも予定しているので、そうした共同研究の成果も評伝に生かされていくことになるだろう。