表題番号:2013A-6106 日付:2014/04/18
研究課題『菅家文草』本文の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 高松 寿夫
研究成果概要
 2009年度~2011年度の科研費を受けて行った、『菅家文草』の寛文版本と元禄版本の校異箇所の確認作業で、なお未着手であった部分を、すべて終えることができた。この結果、両版本の本文の性格について、全体に渡る見通しをつけることが可能となった。結論的には、拙稿「『菅家文草』元禄版本本文の性格」(高松寿夫・雋雪艶編『日本古代文学と白居易―王朝文学の生成と古代東アジア文化交流』勉誠出版/2010年)の見解を確認するものであった。すなわち、元禄版本は、寛文版本を覆刻しつつ、一部本文を改変している。その改変部分については、従来の研究では恣意的な改悪が多いと評されることがあったが、けっしてそのような貶められるべき性格のものではなく、むしろしかるべき検討を経た優良な校訂本文であると評価できるものと捉えられる。このことの確認によって、『菅家文草』の優良な本文としての元禄版本の位置づけを固めることが出来たものと考える。もちろん、元禄版本の改訂部分にも不備は認められるのであり、部分的には寛文版本の本文の方が、優れていると判断される箇所がないわけではない。また、両版本の比較だけでは本文の是非の判断が難しい箇所も少なくなく、『菅家文草』の本文校訂に際しては、他の古写本の参照が欠かせないことは、言うまでもない。今後の一層の本文研究が必要である。
 すでに『『菅家文草』寛文版本・元禄版本校異対照一覧【文章篇】』のための作業は完了した段階にあり、今後、なるべく速やかに同書の刊行に向け、さらに作業を継続して行きたい。今回の研究費助成では、すでに公表した『『菅家文草』寛文版本・元禄版本校異対照一覧【漢詩篇】』の不備を調整し、その第2刷を刊行した。前回同様、両版本の影印の下にやや大きめの余白をあえて設定したのは、そこに、他本との校異情報をさらに付加することを期待しての措置である。前掲拙稿で指摘した、林羅山周辺の『菅家文草』の本文校訂作業と元禄版本が改変に用いた底本との関係についての分析も、なお引き続き行いたい。