表題番号:2013A-6099 日付:2014/04/11
研究課題市区町村教育委員会事務点検評価の機能改善に関する研究―日英学校評価を踏まえて―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 沖 清豪
研究成果概要
 本研究では平成25年度に実施・報告された東京23区における教育に関する事務の点検・評価の報告書を収集・分析し、沖清豪(2012)で提示した平成22年度時点での状況と比較考察を行い、評価制度全体のメタ評価、および教育委員会の活動を評価するための指標や方法について検討した。新たな知見は以下の通りである。
 第一に、本評価制度導入から6年が経過し、区の間で情報公開に関するスタンスの違いが明確になっている。多数の区では平成20年度からの評価結果を同時に公開しているが、一部の区では当該年度のもののみ公開しているなど、教育改革の動向を経年比較で行うことが困難であり、教育行政の公開性に疑問が残る。この点についてはイギリスの学校評価(inspection)報告書と対照的である。
 第二に、評価方法について、平成20年度と同様に教育行政活動を網羅的かつ詳細に評価している区と教育改革の焦点に限定して精選された項目について評価している区とに分かれた。区民にとってどのような情報が必要かについて、必ずしも議論がなされていない状況がうかがえる。
 第三に、法的に求められている学識経験者の選出およびその意見の記述や活用に課題が残っている。平成22年度と比較すると委員の数は現状維持か1名増やしている区が少数みられる一方、区の間での委員の重複は引き続き生じており、4区で委任されている委員が1名(小松郁夫先生)、2区で委任されている委員が4名(勝野正章先生、工藤文三先生、藤井穂高先生、尾木和英先生)確認された。また委員の意見についても、総括的な記述のみ掲載されている報告書となっている区から、評価指標ごとに個別に意見をつけているものや「一次評価→外部評価→二次評価」というプロセスを踏んで最終評価を出す、したがって有識者の意見を外部評価として扱い、それを教育委員会として総合的に判断して最終である二次評価につなげている板橋区のような事例も確認された。
 なお従来から中野区で導入されていた公募区民などを中心とした外部評価委員会制度について平成24年度から江東区でも導入されており、区民参加に基づく教育委員会制度の充実という観点で評価すべき事例である。平成25年度については中野区は12名の外部評価委員のうち2名のみ学識経験者で10名は公募区民で編成されている。また江東区の場合、学識経験者3名、公募区民2名、元校長3名、元PTA会長4名という特色ある編成で外部評価委員会が組織されている。この点については、日本の学校評価における「学校関係者評価」と「第三者評価」との関係からも注目される。
 報告書全体を通読する限り、区ごとに評価項目の選択方法など大きな違いが生じている。それ自体は地方分権との関係で批判すべきことではないが、当該報告書が果たして読み手として想定されている区民にとって有益かつ明確なもの足り得ているのかについては、さらなる工夫と検証が必要であると思われる。
 以上の検討結果を踏まえると、今後は本点検・評価に関するメタ評価の指標作成が必要であると考えられる。特に報告書の形式として、荒川区方式(詳細な記述による評価を行いつつ数値化は極力さけ、有識者は包括的な意見を付す)と豊島区方式(個別シートごとに数値化を試み、評価指標も明確にし、有識者は項目ごとに意見を付す)の成果の違いについては、今後継続的に検証すべき課題であると思われる。