表題番号:2013A-6098 日付:2014/04/06
研究課題バリ島の灌漑組織「スバック」にみる世界遺産登録の成果と課題に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 海老澤 衷
研究成果概要
バリ島の灌漑組織「スバック」とその水田景観が2012年にユネスコの世界遺産に登録された。海老澤は既に2002年からこのスバックに注目し、様々な研究を進めてきた。2010年11月には現地の国立ウダヤナ大学の2名の教授を早稲田大学に招き、ワークショップ「バリ島の農業と灌漑システムの歴史」を開催し、その成果を『講座水稲文化研究5 バリ島ゲルゲル王朝とスバック・グデ・スウェチャプラ』としてまとめた。ささやかながらこれらにより世界遺産登録に貢献することができた。
 今回、8月1日から8月6日にかけて世界遺産に登録されたゾーンを調査し、登録された事による効果を確認した。特にジャテルイ地域においては、美しい棚田の中にある複数のヒンドゥー教寺院がトレッキング・ロードによって結ばれ、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパからの多数の旅行者が散策していた。10年前にはこのような散策路はなく、農耕用のあぜ道しかなかったので誠に隔世の感がある。水田景観そのものが人類のサスティナビリティに大きな影響を与えるものであることが確認され、今後の日本における施策にとって学ぶべきものがあると感じられた。
 また、山間部における水源の寺院にも多くの観光客が集まり、沐浴する姿が見られた。トリヒタカラナと呼ばれる神と自然と人間の一体化を目指すバリ島のヒンドゥー教が無理なく島外の人に受け入れられている様子を見ることが出来た。日本においても伝統的村落景観の重要性が認識されはじめ、21世紀になってから「重要文化的景観」として保全の方策がとられるようになり、その景観によりグリーンツーリズムも展開されはじめているが、外国人が多数見学に訪れるような状況にはなっていない。この点では、バリ島の方が遙かに先進的であり、日本も学ばなければならないと感じられた。日本においても、「水神」は存在し、用水源には祠もあるが(長野県姨捨の更級川上流にある水源林内の水神など)、人跡まれといえるような状況になっていることが多い。工業化、都市化を急いだ日本の姿がそこにあるともいえるが、人類社会のサスティナビリティーのためには村落社会の持続が鍵となるであろう。