表題番号:2013A-6095 日付:2014/03/29
研究課題伝記史料におけるダムナティオ・メモリアエの変容
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助手 福山 佑子
研究成果概要
 本研究の目的は、ダムナティオ・メモリアエについての伝記史料の記述の差異を詳細に検討することで、この処分に対するローマ人の見解がどのように変容していったのかを明示することであった。
 特に、古代ローマ史の伝記史料として極めて重要な作品である、紀元後2世紀初めに執筆されたスエトニウスの『ローマ皇帝伝』と、4世紀末頃に執筆された作者不詳の『ヒストリア・アウグスタ』を比較し、それぞれにおける皇帝に対するダムナティオ・メモリアエ描写の差異を調べた。その上で、これら2作品におけるダムナティオ・メモリアエについての認識の違いの背景を探り、これらの時期における、ローマ人の皇帝や記録に対する見解の変容を明らかにしようと試みた。
 その結果、スエトニウスの記述ではダムナティオ・メモリアエが悪帝に対して元老院が行った記録の破壊行為であったとしてのみ描写されているのに対し、4世紀の『ヒストリア・アウグスタ』では、神々の敵である悪帝に対して行われた報いであったり、神々による懲罰という理由付けのもとに処分が行われており、ダムナティオ・メモリアエに対する神々の介在という特徴があることが判明した。『ヒストリア・アウグスタ』では「神々の敵hostis deorum」という言葉が散見されるが、この言葉は4世紀まで歴史叙述では「悪帝」に対して用いられることのなかった表現である。もっとも、「神の敵」という表現はキリスト教叙述において以前から確認できる。異教よりの人物である作者がこの表現を使っていることは、4世紀の異教の歴史叙述におけるキリスト教の影響についての検討の契機にもなると考えられることから、今後は本研究を発展させる形での研究を進めていきたい。
 また、北京師範大学で開催されたThe Tenth China-Korea-Japan Symposium on Ancient European History “City-State, Empire and Identity in the Ancient World”においては、”The intervention of gods in the punishment of “bad” emperors in the Historia Augusta”と題した口頭報告も行っている。