表題番号:2013A-6080 日付:2014/03/31
研究課題東日本大震災以降の「信頼」概念再検討に向けた、映像研究と哲学研究の領域横断的考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 御子柴 善之
研究成果概要
 本研究の中心課題は、2013年12月7日(土)に、文学学術院総合人文科学研究センターの研究部門、「現代日本における「信頼社会」再構築のための総合的研究」のシンポジウム開催に際して、映画を上映すること、その上映料を(研究費の大半を用いて)支出することだった。本研究では予定どおり、同日、戸山キャンパスの38号館AV教室において映画「先祖になる」(2012年)を、池谷薫監督をお招きして上映した。上映に先立ってミーティングを行い、上映後は、まず同監督に講演をいただき、その後、本研究部門の構成員である、藤本一勇教授、堀内正規教授、松永美穂教授と同監督とによる討議を行った。映画上映に際しては100名弱、討論に際しては50名強の参加者を得て、シンポジウムは盛会のうちに閉会した。
 映画「先祖になる」は、東日本大震災の後、岩手県陸前高田市に住む77歳の人物が、自宅を再建するに至るまでのドキュメンタリーである。本研究は、この作品そのもののみならず、監督からこの作品の製作過程をうかがうことで、震災後の「信頼」について、学横断的に考えた。まず、この作品には、「信頼」の強さが表現されている。その「強さ」の裏づけとして機能しているのは、地域共同体の信仰である。作品の中では、祭りや樹木伐採後の所作にそれが表現されていた。次に、この作品には、「信頼」を生きる人に伴う孤独が表現されてもいた。「信頼」は、個人の人格的自由を基盤とするものであるがゆえに、その主体に孤立が訪れることもある。さらに、この作品は、「信頼」という問題を扱うに際し、個人的・個別的事象を手掛かりにすることの有効性をも明らかにしていた。これは本研究部門において、研究手法にかんする議論が分かれるところであったがゆえに、大いに参考になった。最後に、ドキュメンタリー制作における、製作者と被写体との信頼関係についても、監督から示唆を得ることができた。
 なお、映画上映とは別に、書籍購入など資料収集にも研究費を使用した。これらは、「信頼」や「信頼回復」がキーワードになったかに見える現代日本社会で、なお「信頼社会」を再構築するために、なにが考えられるべきであり、なにが必要であるのかを明らかにしていくための手がかりとなるだろう。