表題番号:2013A-6076 日付:2014/03/30
研究課題清原宣賢漢籍抄の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 河野 貴美子
研究成果概要
 本研究課題においては、室町後期を代表する儒学者であった清原宣賢(1475-1550)が行った漢籍の講釈の内容を記録した注釈書、いわゆる「抄物」のうち、1543年の講述記録である『長恨歌並琵琶行秘抄』を対象として研究を行った。清原宣賢の漢籍抄については、従来、国語学の観点からのアプローチは少なからず行われてきたものの、当時一流の儒学者が、中国の古典や新来の書物の情報をいかに摂取利用し、そこに、室町期から江戸期に向かういかなる学問の潮流が見出せるかといった観点、すなわち、日本における「中国学」「学問史」の展開を鑑み、清原宣賢の抄物とその学問を総合的に捉え位置づけることは必ずしも十分にはなされてこなかった。本研究課題では、研究代表者が担当している『清原宣賢漢籍抄翻印叢刊』(汲古書院)の一冊として刊行に向けて原稿を仕上げるべく、以下のとおり研究を進め、成果を生み出すことができた。
 ①まず、京都大学附属図書館清家文庫に所蔵されている清原宣賢の自筆本『長恨歌並琵琶行秘抄』を精確に翻刻した。清原宣賢の抄物には、代々博士家として学問を継承してきた清原家が行ってきた漢籍の「読み」を示す詳細な訓点が施されている。そうした訓点資料部分も含めて、まずは、影印写真を用いて翻刻作業を進め、最終的には、京都大学附属図書館にて原本の実見調査を行い、不審箇所、難読箇所についても徹底調査を行った。なお、翻刻作業を進めるに当たっては、文学研究科博士課程に在籍している院生と研究会の形でともに作業を行った後、最終的な確認作業の段階では、3名の大学院生にRAとして集中的に翻刻の確認作業に携わってもらった。
 ②『長恨歌並琵琶行秘抄』と関連するテキスト間の異同状況について校異注を作成した。清原宣賢の『長恨歌並琵琶行秘抄』は、従来白居易の作品である「長恨歌」「琵琶行」を読む際に基本的に用いられてきた『白氏文集』所収のテキストではなく、室町期以降新来のテキストとして盛行した『魁本大字諸儒箋解古文真宝』をテキストに用いたものである。また、阪本龍門文庫には宣賢自筆と伝わるもう一種の『長恨歌并琵琶行』テキストが残り、また、古写本『白氏文集』(金澤文庫本)や東京国立博物館蔵那波本『白氏文集』(林羅山附訓)など、他の関連諸本と比べた場合、「長恨歌」「琵琶行」の本文や読みがいかに変化しているのかも重要な情報となる。そこで、これらの諸本の実見調査、影印本による調査をふまえて、詳密な校異注を作成した。
 ③清原宣賢が『長恨歌並琵琶行秘抄』における注釈に利用している各種典籍について、その利用状況を通して、室町後期当時の学術環境の一端を明らかにすべく、調査、考察を加え、注記の作成を行った。
 ④清原宣賢の『長恨歌並琵琶行秘抄』がもつ学術史的意義、また、当時の文芸との関係、また、前後の文学史における位置づけ、当時の学問と知を牽引した五山僧や公卿らとのネットワークなど、『長恨歌並琵琶行秘抄』に関わる総合的な考察を進め、国際シンポジウムにおいて発表を行った(蔚山大学校日本語日本学科・浙江工商大学東亜研究院・早稲田大学日本宗教文化研究所主催「韓中日国際シンポジウム 東アジアの霊魂観と文化交流」(2014年3月21日、於蔚山大学にて「楊貴妃の魂―清原宣賢が説く『長恨歌』世界―」と題して基調講演を行った)。
以上の成果を総合してまとめ、『清原宣賢漢籍抄翻印叢刊』として刊行する準備をほぼ整えることができた。