表題番号:2013A-6074 日付:2014/04/11
研究課題明治から戦前の大衆映像文化
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 草原 真知子
研究成果概要
本研究は、明治時代(一部に江戸末期を含む)から戦前の視覚文化の様相をメディア論的視点から分析するものである。
テーマとして「映像の生成と受容」「リアルの変容」「メディア技術の発展と大衆文化への影響」があり、具体的な事例として
(1)幻燈、写し絵、紙芝居(写し絵は日本版の幻燈であり、紙芝居はこの写し絵から発展した)
(2)パノラマと覗きからくり
(3)ベビートーキーと戦前の「小型映画」
(4)パノラマ館、パノラマとジオラマ、立体写真
といった項目がある。

本研究はMedia Archaeologyというメディア論の一つのdisciplineに依るものであるが、信頼できる文献が少なく、著名な研究者でも間違いのある文献や伝聞に頼って事実誤認を犯しているケースも見受けられる。一次資料に当たることが最も重要であり、本助成費はそのために役だった。本研究テーマでは大衆文化、それもあまり今まで研究の対象とされてこなかった分野を扱うため、既存の研究のみならず、既存のデータベースにもあまり収録されてこなかった、埋もれた大衆文化関係資料が重要な意味を持つ。すでに今まで多くの資料を収集してきたが、資料の収集は継続的に行う必要がある。

本研究は今後も続くものであるが、当面の成果としては以下を挙げることができる。

(1)日本のパノラマ館の盛衰の全容を調べるべく調査研究してきたが、これをかなりの精度に高めることができた。その成果は次項で述べるように、日本映像学会大会において発表した。これは九州から東北地方まで全国に存在したパノラマ館の関連資料をビジュアルに示すことで、従来明らかにされてこなかった明治時代のパノラマ館ブームの実態を追体験する試みであり、既に収集・調査した資料に加えて、本助成費によって購入した書籍・資料を研究及び本発表に用いた。この発表の概要は日本映像学会の大会論文集に掲載されている。

(2)明治維新とほぼ同時に日本に入ってきた「写真」が、写真そのものとしてだけでなく、どのようなメタファーとして大衆に意識され、文化に反映したかについて、研究を進めることができた。本研究は錦絵やパノラマだけでなく広告や着物の柄のデザインなど大衆にとって最も身近な視覚文化の中で、「写真」が「リアル」の代名詞として機能し、独特の文化的価値を持つ時代があったことを明らかにするものであり、このような領域横断的な研究は今までになされていない。これについては、次項で述べるように早稲田大学表象・メディア論学会で報告しただけでなく、日本映像学会大会で発表予定である。