表題番号:2013A-6071 日付:2014/03/21
研究課題チャールズ・ディケンズの公開朗読に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 梅宮 創造
研究成果概要
 本研究のテーマは、チャールズ・ディケンズの自作公開朗読を通してディケンズ文学の謎に迫るというものである。ディケンズの公開朗読に関してはこれまでも幾つかの論文や著作で扱ってきたが、今回はなお充分に論究しえなかった点を掘り下げる覚悟であった。まずは、もう一度入念に外堀をうめるところから着手した。ディケンズの朗読の実態を把握するためには、どうしても看過しがたい書がある。Field, Kate. Pen Photographs of Charles Dickens’s Readings: Taken from Life(1871) および Kent, Charles Forster. Charles Dickens as A Reader(2007)、そしてCollins, Philip. Dickens: The Public Readings (1975)や、Andrews, Malcolm. Charles Dickens and His Performing Selves (2006)、それから公開朗読の最後のマネージャーを務めたGeorge Dolbyの記録Charles Dickens as I Knew Him (1885)にも改めて目を通した。それらを再読してみると、結局ディケンズにとって朗読とは何であったか、という根本問題がますます謎めいてくる。わかったつもりになっても、まだわからない部分が残る。そこで次はディケンズの著名な伝記類に注目して、とりわけ1850年以降、70年の死に至るまでの身辺事情をていねいにおさらいした。もちろん近年に出版された伝記の幾つか、Ackroyd, Peter. Dickens (1990)、Nayder, Lillian. The Other Dickens: A Life of Catherine Hogarth (2011)、Slater, Michael. Charles Dickens (2009)、Tomalin, Claire. Charles Dickens (2011)、Callow, Simon. Charles Dickens and the Great Theatre of the World (2012) などにも怠らず目を通した。ちなみに以上の成果として、2013年10月に『「クリスマス・キャロル」前後』刊行、11月には朗読台本「クリスマス・キャロル」(翻訳)が佐藤昇によって朗読され、また2014年2月にはクレア・トマリン著『チャールズ・ディケンズ伝』の書評を発表した(共同通信社)。
 本研究費によって、これまで不足していた必要な資料を重点的に集めることができた。加うるに、ディケンズ文学に関係するDVDやCDも数多く購入し、これらからは多大の刺激と貴重なヒントを得ることができた。なかでもSimon Callowによるワンマン・ショー、The Mystery of Charles Dickensと、Miriam Margolyesのトーク・ショー、Dickens’ Womenは、とかく研究テーマの重圧につぶされがちな筆者を鼓舞・激励するものであった。さらには、初期のサイレント映画を集めたDVDの一巻、Dickens Before Soundもまた、言葉を超えた或るものの働きに注意をうながす触媒として大いに参考になった。