表題番号:2013A-6070 日付:2014/04/16
研究課題傳増湘の詩と伝記に関する基礎的研究―民国期の中国古典学の再検討に向けて―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 稲畑 耕一郎
研究成果概要
 本研究の目的の第一は、民国期の大蔵書家、大文献学者として高い学術的評価を得ている傅増湘の詩文集(稿本)の編纂にある。同時に、その仕事を通して、民国期の中国古典学を再検討し、今日の中国古典学の再興に繋げようとすることにある。
 傅増湘の古文献学以外の詩文は、民国年間の雑誌などに数多く散在するが、まだその集成に着手したものはない。今年度はそれに至る基礎研究として、傅増湘が清代末期に提学使として熱河に視察に出た時の「日記」と、その道中で作られた「詩篇」、及びその時に撮影された「写真」を発見し、この三種の資料から、この時の視学使の旅がどのようなものであったか、また旧時の文人の旅がいかなるものであったか、あるいはその風景が現在とどのように異なるのかなどについて考察した文章を発表した。
 その過程で、百年前の清末から民国初期に上海の商務印書館から出版された二種類の『中国名勝』(英語のタイトルは、一つはViews of China 、もう一つは Scenic China)という写真集を探し出し、当時の名勝の風景が学者たちにどのように見られていたのか、また「歴史的景観」といわれるものがいかに変化するものであるのかなどについて具体的に考察した。この写真集は、当時の最新の印刷技術であるコロタイプ印刷で刊行されたものであったが、それが中国における文人たちの伝統的な遊山の風習と新たに始まった当時の世界的な規模での「旅行熱」の中で出版されたことを指摘した。
 また、これらに先立って、傅増湘に「居庸雑詠」という六首連作の詩が民国期の雑誌に発表されていることを探し出し、居庸関の攻防を巡る歴史を詠んだ詩篇から傅増湘の戦乱に対する見方を考察し、人物論の一環とした。
伝記資料についても、北京郊外において父祖の墓を探し当てて、その墓石に刻まれた墓誌銘などの第一次資料を採集し、伝記研究に備えることができた。
 こうした調査と探究を通じて、本研究課題である「傅増湘の詩と伝記に関する基礎的研究」について段階的な成果を着実に積み上げることができたが、その成果の詳細は下記の論文を参照されたい。
 なお、これらの研究については、関連の国際シンポジウムにおいて発表し、専門家と討論する中で今後の本研究の継続と展開に大きな支持を得ることができた。