表題番号:2013A-6068 日付:2014/03/07
研究課題未発生の客体を対象とする譲渡の法的構造に関する基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 准教授 白石 大
研究成果概要
 本研究は,未発生の客体を対象とする譲渡がいかにして可能であるかについて,その理論構造を解明することを目的とするものであり,①未発生の客体を譲渡しうる法的根拠,②客体発生前の段階で譲受人が取得する権利の実体,③譲渡対象客体の移転時期,④譲渡対象客体の移転過程,⑤客体発生前に対抗要件を具備しうる理論的根拠,という5つの検討課題を設定している。
2013年度は,将来の債権を客体とする譲渡について,③・⑤に関する研究を中心に行い,その成果を「将来債権譲渡の対抗要件の構造に関する試論」という約4万字の論文にまとめた。同論文の概要は以下のとおりである。将来債権譲渡については,最高裁平成13年11月22日判決および最高裁平成19年2月15日判決を契機に,「債権は未発生の段階ですでに譲受人に移転する」との見解が有力となっている。この見解は,対抗要件を権利移転の公示手段と捉え,譲渡契約時に何らかの権利が移転していなければその時点での対抗要件具備も観念しえないとの前提に立つものである。しかしこのように,およそ債権の発生原因たる契約すら締結されていない状態で,その債権の移転を語ることが果たして可能であるかは疑問であり,またこれは比較法の観点から見ても異例な解釈である。そこで同論文は,フランスの「契約の対抗」に関する理論を参照し,対抗要件によって公示されるのは「権利移転」そのものではなく「権利移転を目的とする法律行為(譲渡契約)」であるとの試論を示す。これにより,将来債権譲渡の「対抗」の構造は次のように再構成される。すなわち,債権譲受人Aが,将来債権を客体とする譲渡契約を締結し,この「譲渡(契約)」が確定日付のある証書による通知・承諾(または債権譲渡登記)によって第三者対抗要件を備えると,その後に他の者Bがこれと競合する債権譲渡契約を締結したとしても,Bは先に第三者対抗要件を備えたAに自らの譲渡契約を対抗することができない。やがて債権が発生するに至ると,Aは第三者に対抗しうる「譲渡(契約)」の効力によって,その時点ではじめて生じる債権移転の名宛人となり,譲渡対象債権を有効に取得する,と。こうして,「未発生の債権は移転しえない」という常識的な観念を前提としつつ,それと同時に,債権が未発生の段階でも譲渡の対抗力を備えることができるという帰結を維持することも可能になる。
なお,上記論文「将来債権譲渡の対抗要件の構造に関する試論」は,近刊予定の早稲田法学89巻3号に掲載されることが決定している。