表題番号:2013A-6060 日付:2014/03/08
研究課題自己株式の貸株等の新しい金融取引の会社法・金融商品取引法・金融法上の諸問題
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 岩原 紳作
研究成果概要
 本研究は、自己株式の貸株や Credit Default Swap (CDS) 等の新しい金融取引の会社法、金融商品取引法、金融監督法、取引法上の諸問題を検討するものである。本研究の中心は、自己株式の貸株を利用した green shoe option 取引にあり、海外におけるその取引と、それを我が国に導入しようとする取引計画につき、証券会社や法律事務所等にヒアリングを行うフィールド・リサーチや、文献・資料による調査を行った。また、ドイツの関連論文や判例等を中心に、アメリカ等を含む海外文献・資料の調査も行った。
 これらの調査を基に、まず貸株取引の実態の解明に努めた。取引を利用目的に従って分類し、その中から法的に問題のあるものを取り上げて検討することにした。貸株については、担保目的等の取引手段として貸株が利用される場合や、買収防衛目的等で株式を購入することなく会社の議決権を入手するため等に行われる戦略的手段としての貸株に問題があり、CDSについては投機目的での利用が問題となることを明らかにした。
 貸株は、会社法的にも金融商品取引法的にも様々な問題を抱えている。本研究においては、第一にその法律構成を明らかにし、株式の消費貸借または再売買予約付売買と構成した。第二に、貸株等の有価証券貸借の形で担保に供した場合の効力を明らかにした。第三に、貸株に関するインサイダー取引規制や、借受者・貸付者の開示における届出義務、公開買付規制の適用の有無等につき検討し、原則としては脱法的に用いられない限りこれらの規制の適用はないという結論に至った。第四に、貸株を用いて株式の経済的な利益の帰属主体を議決権行使者から切り離す empty voting という問題等を検討した。その結果、アメリカではSECの規則で一定範囲で株式の実質的な所有者に議決権を行使させており、ドイツにおいても一定の場合に借株者による議決権行使を否定する解釈が主張されており、我が国でもそのような立法論的・解釈論的工夫が必要であることを示した。
 本研究において特に力を入れて検討したのは、自己株式を貸株して行われる green shoe option と呼ばれる取引の会社法的な問題である。自己株式を貸株することが会社法199条1項に定める自己株式の「処分」に当たり、募集株式発行等の会社法規制の適用を受けるかを検討した。自己株式の「処分」に原則として該当すると考えたうえで、借株者に株式の所有権は移転するが、「特に有利な金額」による自己株式の「処分」には当たらないとするためには、取引開始時に借株者が貸株される自己株式の時価相当額を担保として提供する必要があると考えるべきことを明らかにした。また、「処分」時の公示に工夫が必要なこと、種類株式発行規制は及ばないこと、自己株式の貸借期間満了時に借株を返還することに自己株式取得規制が及ばないこと、等を明らかにすることができた。
 この他、投機目的のCDSにつき、刑法の賭博罪の適用がありうるのか、金融監督法上はいかなる手当が必要なのか、清算機関の設置強制の必要性等についても検討を行った。