表題番号:2013A-6059 日付:2014/04/07
研究課題刑事司法・少年保護司法システムの入口段階における地域生活定着促進事業の展開可能性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 石川 正興
研究成果概要
1.本研究の位置付け
 本研究は、2012年4月から2013年10月末に行った「高齢出所者に対する地域生活定着支援センターの運用実態に関する研究」を発展的に引き継ぐものである。上記研究では、矯正施設出所時、つまり「出口」段階における支援策について調査研究を行った。しかし、その過程において、刑事司法システムからダイバートさせて福祉的支援につなげる方策、つまりは「入口」段階における支援策が再犯防止の有効性や経済性という観点から好ましいこと、また現場においてもその萌芽が見られ始めていることが判明した。
そこで、本研究では、その「入口」段階における支援策の展開可能性がいかにあるかの実態調査研究を行った。

2.調査内容
 以下の調査を実施した。
 ①2013年12月1日 兵庫県地域生活定着支援センター担当者(元大阪府地域生活定着支援センター相談員)との意見交換
 ②2013年12月7・8日 日本更生保護学会での情報収集
 ③2013年12月14日 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園理事(元滋賀県地域生活定着支援センター所長)及び滋賀県地域生活定着支援センター副所長との意見交換
 ④2014年3月4・5日 宮城県における「入口」支援に関する実態調査
 ⑤2014年3月17・18日 大阪府・兵庫県における「入口」支援に関する実態調査
 ⑥関連図書資料の収集

3.調査結果
 調査の結果、以下のことが判明した。
(1)「入口」支援の類型区分
調査の結果、現在実施されている「入口」支援は、以下のように区分することができる。
 ①厚生労働省社会・援護局総務課長通知「地域生活定着支援センター事業及び運営に関する指針」に基づく、地域生活定着支援センターの「相談支援業務」を活用した被疑者・被告人の支援。
 ②いわゆる「新長崎モデル」と呼ばれる、被疑者・被告人の福祉的ニーズを調査する民間の調査支援委員会を利用した支援(長崎県・滋賀県・宮城県・島根県・和歌山県にて実施)。
 ③東京、仙台の地方検察庁における、非常勤採用の社会福祉士を中心に起訴猶予者を福祉に繋げる試み。
 ④仙台、福島、水戸、富山、広島、高松、熊本の各地方検察庁と保護観察所の連携による、更生緊急保護の事前調整を活用した「入口」支援の試行。
 ⑤弁護士会と社会福祉士会の連携による、被疑者・被告人段階での「入口支援」の試行。

(2)「入口」支援の意義および課題
 ①検察による「入口」支援
  検察は本来訴追機関であり、犯罪被害者の存在を離れて加害者側のみの支援をすることはできない。そのため、加害者に対する支援を行う場合には、同時に被害者の支援にも配慮できるような体制作りを考える必要がある。

 ②民間の調査支援委員会による「入口」支援
  調査支援委員会は、刑事司法システムにおける「入口支援」として、公判段階で執行猶予をとることばかりが意義ではない。実刑になっても、入口段階での情報ネットワークが作られていることは、実刑になった対象者が刑務所から出る場合の支援体制が早い段階で構築されていることも意味する。その意味では「出口」支援にもつながる情報収集ができるという意義もある。
他方、調査支援委員会は民間のメンバーで組織されることから、その運用が恣意的にならないよう、組織の中立性を保てるよう配慮した仕組み作りが求められる。

 ③保護観察所と地方検察庁の連携による、更生緊急保護の事前調整を活用した「入口」支援
  保護観察所が更生緊急保護の事前調整のために利用できる期間は、起訴前勾留期間に限られるため、最長でも20日間しかない。調整のための期間が非常に短いので、検察庁からの可能な限り速やかな情報提供が求められる。
保護観察所は事前調整を行うことで、対象者からの更生緊急保護申出時に速やかに居住支援ができる。他方、更生保護施設や自立準備ホームなどの受け皿が無ければ制度が機能しないので、これらの拡充が今後の課題となる。