表題番号:2013A-6051 日付:2014/02/26
研究課題仮登記制度と不動産物権変動論
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 准教授 大場 浩之
研究成果概要
 本研究の目的は、以下の2点にある。すなわち、ドイツにおける仮登記制度を検討の素材とすることにより、物権と債権の明確な峻別を前提としているドイツ物権法に対しての硬直的な理解を払拭すること、および、同じく仮登記制度を日本法とドイツ法を比較するための道具概念として用いた上で、不動産物権変動と登記の関係について考察し、登記制度の重要性を指摘した上で、わが国における不動産物権変動論、とりわけ、不動産所有権の移転時期に関して、登記主義の観点に基づく解釈論の提示を試みることである。いずれの点についても、仮登記制度を分析のための道具として用いつつ、物権債権峻別論を基軸としながら考察を試みた。
 その結果、ドイツ法上の仮登記は、物権債権峻別論に基づく土地所有権譲渡理論の問題点を修正する機能を有していると評価することが可能であることが判明した。このことは、ドイツ法の形式主義が、修正することが許されない硬直した制度では必ずしもないことを、明らかにしている。この点に、ドイツ法の柔軟性を確認することができた。
 このことから、日本法との比較を行うことが可能となる。日本法においても、ドイツ法におけるのと同様に、本登記を備えていない権利者を保護する必要性が生じてくるが、ここでも、そのために採用された制度は仮登記制度であった。つまり、不動産公示制度を利用した手段が用意されたのである。このことは、日本においても観念的な権利をできる限り登記を利用して公示するべきであるとする思想が根づいている証左であるといえる。
 さらに、判例および通説においても、不動産物権変動の効力発生要件として、実質的に登記が重要視されていることは、疑いのないところである。また、登記をしてはじめて不動産所有権を取得することができるというのが、制度としてわかりやすいであろうし、さらに、物権変動の効力発生時とその基準が明確にされるべきであることの重要性は、すでに確認されているものと思われる。
 以上の点に、ドイツ法上の形式主義を硬直したものととらえず、日本の判例および学説にも配慮しながら、日本の不動産物権変動論を検討するに際しても、登記主義に基づく問題の把握を試みることの可能性が開かれていると評価することができる。つまり、とりわけ民法176条の解釈論として、原則的に登記主義を採用した上で、例外的に意思主義をも認めるという理解の提案である。
 仮登記制度は、対抗問題の場面に際して主として機能することが予定されている制度であるが、不動産公示制度、つまり、広い意味での登記制度という視点からすれば、実質的な物権変動の効力発生の契機をもたらすという点でも、登記制度の重要性を明確に示しているといえる。