表題番号:2013A-6049
日付:2014/02/27
研究課題倒産手続における所有権留保の処遇についての類型的分析
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 法学学術院 | 教授 | 山本 研 |
- 研究成果概要
- 倒産手続における担保権の処遇については、旧法下より倒産法分野における中心的検討課題の一つとされてきたが、所有権留保の処遇については、別除権・更生担保権として扱うとする程度で、それ以上の掘り下げた検討は、必ずしも十分にはなされていないといえる。そこで、本研究においては、所有権留保の倒産手続における処遇について判示した近時の裁判例(最判平成22年6月4日民集64巻4号1107頁[信販会社が介在する三者間の所有権留保]、東京地判平成22年9月8日判タ1350号246頁[二当事者間の所有権留保])を手掛かりとして、所有権留保の類型的分析に基づき、倒産手続における処遇について明らかにすることを試みたところである。
本研究では、上記二つの裁判例についての評釈、および、所有権留保に関する文献を収集するとともに、その分析を行った結果、次のような見解に達するに至った。すなわち、二当事者間の所有権留保については、近時有力に主張されている担保的構成を前提に、物権的期待権説(所有権留保買主の条件付権利を物権的期待権と位置づけ、売主の所有権は、買主の期待権により物権的な制約を受けているとする見解)、または、分属説(残代金を被担保債権とする留保所有権が売主に、所有権からこれを差し引いた物権的地位が買主に帰属するという、売主と買主に所有権を分属させる見解)を原則的構成としてとらえるべきである(ただし、当事者間の意思表示等により、譲渡担保を再設定する等の構成も採り得る)。上記の原則的構成によれば、売主に帰属する(担保目的の)所有権は、当初より売主に帰属していたものであり、新たな物権の設定や物権の譲渡には当たらないため、買主に倒産手続が開始されたとしても、留保売主は自己の留保所有権を、第三者的地位に立つ破産管財人や再生債務者に対しても、対抗要件なくして主張することができる(ただし、別除権としての権利行使を許容するにあたり、「権利保護要件」としての対抗要件が必要とされるかについては、なお検討の余地がある)。
他方、三者間の所有権留保についても、原則としては、上記二当事者間の所有権留保についての法律構成を基本に、売主の下に帰属していた留保所有権が担保目的で信販会社に移転したと構成すべきであり、これについては新たな物権の設定や物権の譲渡に該当するため、買主に倒産手続が開始された場合には、破産管財人や再生債務者の第三者的地位を前提とする限り、信販会社が別除権者として権利行使をするためには対抗要件の具備が必要となる。ただし、この場合であっても、手数料等を控除した残代金部分については、弁済による代位(民501条)によって、売主が有していた留保所有権を別除権として行使することは妨げられない。
以上の検討結果については、詳細について理論的に詰めた上で、判例研究または論文の形で発表することを予定している。また、上記の検討のための基礎的研究として、民事再生手続における(所有権留保を含む)別除権の処遇、および、所有権留保に対する担保権消滅請求の適用の可否についても検討を行い、その検討結果については、下記の論文に反映されている。