表題番号:2013A-6042 日付:2014/04/11
研究課題国際社会における国際裁判制度の歴史的展開とその意義
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 河野 真理子
研究成果概要
 国際司法裁判所の管轄権の制度についての歴史的な研究を行った。特に、条約の紛争解決条項に基づく管轄権と、国内法制度に影響を与えるような判決が出される裁判例の分析に焦点をあてた研究をおこなった。
 第一の論点の、条約の紛争解決条項に基づく管轄権に関する研究としては、紛争解決条項を含む紛争に関連づけた紛争が国際司法裁判所に付託される際の問題点を考察した。条約の紛争解決条項は、紛争を一方的に国際司法裁判所に付託する手段の一つとして、近年多用されるようになっている管轄権の根拠である。紛争の両方の当事国が紛争解決条項を含む条約の締約国である場合、原告となる国が自国と相手国との紛争について当該条約に関連付けた紛争主題を特定できれば、その条約に含まれる紛争解決条項を国際司法裁判所の強制的管轄権の根拠として援用することが可能になる。しかし、特に最近の事例では、紛争解決条項を援用するために、人為的に紛争主題が特定される場合も見られ、紛争解決条項に基づく国際司法裁判所の管轄権が本来の条項の趣旨に沿ったものではない事例も見られる。そのような場合、被告とされる国家は、国際司法裁判所の管轄権に対する抗弁を提起することになる。本研究では、条約の紛争解決条項が援用された事例での両当事者の主張と裁判所の判断、及び少数意見に反映される、裁判所の多数意見の構成の過程での議論の分析を試みた。
 第二の論点の、国内法制度に影響を与えるような判決が出される裁判例の分析については、2000年以降の判決を中心として、国際司法裁判所の判決で国内法制度において何らかの措置を取ることを命令した判決の例を取り上げ、国際司法裁判所の裁判が国内法制度に与える影響の分析を試みた。従来は国際司法裁判所で、特定の国の行為が国際法に違反することが認められる場合、金銭賠償によって、その責任が解除される事例がほとんどであった。ところが、近年は、特に被告国の国内法制度、又は国内法に基づく国家機関の行為の国際法違反が問われる事例が増加している。そのような事例では、原告国は、金銭賠償では不十分とし、国際司法裁判所に国内法上の措置をとることを命ずることを要請することになり、裁判所もこれを認めて、被告国に国内法上の措置をとることを命ずるのである。被告国の国内法制度に大きな影響を持つ判決が出された場合、被告国の側にどのような問題点があるのか、また被告国がそのような判決に従うことを促進するために国際司法裁判所はどのようなことを考慮しなければならないのかを検討した。