表題番号:2013A-6039 日付:2014/05/16
研究課題株式会社法における市場の論理とデモクラシーの論理
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 上村 達男
研究成果概要
株式会社法は、証券市場を使いこなせる制度として発展してきた会社制度である。そこでは利益配当請求権や残余財産分配請求権のように経済的権利をめぐって証券市場が形成されるが、他方で議決権はその出自においては株主が個人ないし市民であることを前提にした企業ないし企業社会に対するデモクラティックな関与を意味するものであった。市民が政治に対して主権者として位置づけられるように、市民という主権者が議決権行使という形で経済をコントロールするという欧州型の理念がそこにはある。しかし、そうした社会的背景を持たない国で株式会社制度は経済的権利と証券市場のみを中心に理解されてきており、議決権は単なる経済的関係を良い方向に導くインセンティブとしてのみ理解される傾向が強い。アメリカ発の法と経済学は議決権も財産権として位置づけ、いわばデモクラシーに価格を付けるという次元の低い発想への反省すら乏しい状況であり、そうした発想を不自然と考えない経済学者・法律学者が日本にも非常に多い。このように株主を経済主体としてのみ理解する発想を前提に、会社は株主のものだという標語が横行すると、そこで現に生じていることは、中国での国家株主、イスラムの王族株主、出資者が誰か不明な匿名のファンド、事業法人株主といった市民や人間を代表しない主体こそが企業社会を支配するという結論を肯定する論理の主張である。こうした帰結はかつて市民革命で市民が戦った相手である国王、教会、中世的な団体・結社の賛美であり、その反面における個人や市民の地位の相対的な、著しい低下である。今日の世界的課題である格差、貧困、地球環境等々の問題も、単に弱者保護を強調しても所詮は限界があり、そこで求められているのは、支配する側の論理の全面見直しでなければならない。  このように、株式会社法の基礎理論である株主の権利の意義という問題は、企業によるグローバルな活動の意味を問い直す重大な問題と直結している。こうした問題を以前より持ち続けてきているが、この1年間でそうした問題の意義に関する考察は大いに深まったと思っており、各所での講演や学会報告でもそうした見解を披瀝してきている。この問題はきわめて大きな問題であり、特定課題Bと一体として研究を推進してきた。今後とも日本発のグローバルな問題提起を株式会社法の基礎理論の見直しという形で訴えていきたい。