表題番号:2013A-6022 日付:2016/08/05
研究課題習慣形成の存在が出生率と長期成長率に与える影響について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 准教授 金子 昭彦
研究成果概要
本研究は,「習慣形成,出生率および長期経済成長」と題して,近年注目されている習慣形成を考慮した上で,習慣形成と出生率や長期経済成長率との関係を明らかにするものである.習慣形成はLa Croix, De, D., & Michel, P. (1999). Optimal growth when tastes are inherited. Journal of Economic Dynamics and Control, 23(4), 519–537.に倣い,親世代の消費量に依存すると考える

モデルの骨格としては,消費者側は出生率を内生化した2期間世代重複モデルを使い,生産者側としてはローマー型のlearning-by-doingモデルを利用している.習慣形成がストック変数のため,我々のモデルは内生成長モデルであるが,移行過程が存在する.

以上のモデルを分析した結果,まず次のような結論が得られた.

1.習慣形成により定常における出生率が低下することが認められた.2.定常成長経路はユニークで安定的である.3.習慣形成の程度が大きくなるほど長期成長率が低下する.

さらに我々は,移行過程における出生率についての分析を行った.移行過程での出生率は,資本と習慣形成の相対的な変化に依存している.もし資本蓄積のスピードが習慣形成のスピードよりも速ければ,出生率は上昇し,逆なら出生率は低下する.我々は日本における過去25年間の資本蓄積と習慣形成(これは25年前の消費を親世代の消費とし,習慣形成の代理変数としている)のスピードを比べ,習慣形成のスピードの方が速かったことを見つけた.これにより,近年の日本の出生率の低下の要因として,習慣形成の存在が上げられることを示唆している. 上に挙げた結果の1と組み合わせることにより,移行過程だけでなく将来的にも出生率が低くなってしまうであろうと予想される.これは新たな発見であると同時に,このように習慣形成をデータによって把握しようという試みはこれまでになかった.