表題番号:2013A-6019 日付:2014/04/09
研究課題ナショナリズムその歴史・争点・展望-東アジアの現状とヨーロッパの経験-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 堀 真清
研究成果概要
申請者は、表記研究課題にたいし、以下のようにとりくんだ。

①2013年10月4日、パリ、国立人文科学館=FMSH(la Fondation Maison des Sciences de l'homme)において、Génealogie de la démocratie au Japon : 《 prise de conscience 》de l'histoire de l'Asie orientale, selon Oe Kenzaburo, Itami Mansaku, Watanabe Kazuo. と題し、講演。

内容は、日本のナショナリズムの帰結でもあった太平洋戦争について、また戦争責任について、敗戦後、人びとはいかに理解したかを、映画監督伊丹万作の論考「戦争責任者の問題」、ならびに、フランス文学者渡辺一夫の論考「東條元首相の写真」を中心に考察し、さらに、戦中・戦後における沖縄の置かれた問題を作家大江健三郎の論考「核基地に生きる日本人――沖縄の核基地と被爆者――」を検討した。


②2013年10月22日、早稲田大学、ナショナリズム研究セミナーにおいて、「日本のナショナリズムの二重性」と題し、報告した。同セミナーでは、パリ第一大学名誉教授のピエール・ビルンボーム「ナショナリズム、国家と宗教――比較分析のために」、FMSH主任研究員(日本担当)のジャンヌ・コビー「東アジアへのまなざし」、中国政法大学助教授の劉星「中国外交におけるナショナリズムの要因」など、6本の報告がなされた。

内容は、日本人のナショナリズムは、祖国愛と呼んでもよい正当なナショナリズムと病理的なそれとが一体になって展開されたことを幕末・明治維新以降、太平洋戦争の敗戦にいたる過程のなかで論じた。とくにB、C級戦犯処刑者(戦犯の遺書)に見られる素朴なナショナリズムと戦争遂行のなかで表出した「鬼畜米英」の叫びがいかなる関係にあるのかに焦点をあてた。


③2014年3月24日、中国政法大学にて、「日本人的民族主義――現状与克服的方法」と題し、講義。


④2014年3月25日、中国清華大学にて、「日本人的民族主義――現状与克服的方法」と題し、公開講演。

内容は③と④ともほぼ同一であるが、④においてはナショナリズムの歴史にも触れた。論点は、安倍内閣の喚起しつつあるナショナリズムと、中国ならびに韓国における対日外交のナショナリステックな側面とが、反発しあい、それぞれの国民に敵対的な感情をもたらしているか。そして、いかにすれば、このような環境から抜け出せるか。その改善・克服の道を、米ソ冷戦時代の実態を参照しながら提議した。


⑤2013年7月、『原典でよむ日本デモクラシー論集』を岩波書店から刊行した。

内容は、明治から現在までの日本人のデモクラシーを求める努力と、それの障害となった軍国主義やナショナリズムについて俯瞰したものである。「Ⅰ 抵抗・自由・民権」から、「Ⅱ 女性解放・差別との闘い」、「Ⅲ 軍国主義批判・暴力批判」、「Ⅳ 戦争と責任」、「Ⅴ 戦後民主主義から55年体制へ」、「Ⅵ アジア」、「Ⅶ さらなる課題」までを視野に入れた構成である。

 
⑥2013年8月、『思想者的足跡――池明観』を北京、世界知識出版社から刊行した。

内容は、朝鮮半島の人びとが植民地支配下いかなる環境におかれたか。そして、解放後は韓国において民主化をもとめる運動はどのように進められ文民政府を実現したか。こうした歴史を韓国の知識人池明観の思想と足跡に即して論じた。なお、この本の序文でナショナリズムの高揚する東アジアの各国間において相互理解が緊要不可欠なことを強調した。