表題番号:2013A-6018 日付:2014/04/11
研究課題経済成長のための労働市場改革の日欧比較研究-フレキシキュリティの可能性と課題-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 福田 耕治
研究成果概要
 EU/欧州諸国では、経済・金融危機以降、所得格差が拡大し、雇用・失業問題、年金制度と社会保障の在り方への関心が日本と同様に高まっている。本研究では、EU・欧州諸国における新成長戦略「欧州2020」と雇用・労働問題と社会保障改革をめぐる制度と政策を俯瞰し、福祉と労働に起因する問題を日本の状況と比較しつつ、日本への示唆と政策課題を考察した。
 雇用政策と社会保障政策は密接不可分で、両者を関係づけて考えなければならない。新自由主義的な経済思潮の下で構造改革や規制改革が叫ばれ、企業の市場競争力の強化の観点から「労働の柔軟化」が行われ、企業単位の正規労働者中心の雇用で成り立ってきた福祉体制は、非正規労働者の占める割合が増大するにつれ弱体化し、深刻化している。本研究では、セーフティ・ネットを支える雇用、年金、医療など、雇用・労働政策と福祉・社会保障政策の密接な相互連関に着目し、錯綜する生活保障の仕組みを整理し、欧州の労働市場改革の先行事例を手掛かりに、その課題や可能性について検討した。グローバルな経済危機が生じて以来、大多数のEUの加盟国は政策の同様のセットの形成の方向に移動している。なぜそうなのか。EUのレベルにグローバルな経済危機および労働政策の背景を明らかにした。2008年のリーマン・ブラザーズの崩壊以来、「新自由主義的」なEU統合プロセスにおいてEU雇用労働政策は新しい現実に直面した。すなわち、デンマークやオランダなどでは、フレキシキュリティ政策がある程度成功したが、日本や南欧諸国では正規社員と非正規社員との間で経済格差が拡大し、下層賃金労働者の貧困化が進行した。EUの「社会ヨーロッパ」を構築するという目標は、大幅に後退した。また、EU諸国の社会保障は、緊縮財政政策を採用することを強いられた諸国においてはより低い地位へと追い込まれた。
 EUの東方拡大は賃金労働者の間での反対に結びついた。また、労働者は「より低い労務賃金への競争(下への競争)」を余儀なくされた。この現象は、さらに日本でも同様に生じている。ヨーロッパ諸国および日本は、ケインズの福祉国家(KWNS)からSchumpeterian労働ポスト福祉国家(SWPR)へと変化した。先進国は、自国の金融制度の保護を目指し銀行を救う財政援助するために公的資金を費やしている。政治指導者がリーマン・ブラザーズ(日本も1991のバブル崩壊の後に)EU諸国で類似の労働市場改革が行われた理由を考察し、グローバルな経済危機によって必要とされた労働市場改革はどのような人々に負担を強いるものであったかを理論的かつ実証的に分析し、考察した。その成果は、国際シンポジューム等で報告し、欧州の専門研究者との共著書、E&E社の英文図書に英語論文の形で発表した。これ以外に、藤原書店 刊行の 季刊『環』誌に、アマーブル・ソルヴォンヌ大学教授との座談会(対談)「ユーロ危機と欧州統合のゆくえ」においても経済危機との関連でEUの「社会的ヨーロッパ」と労働市場改革について議論し、日本の非正規雇用拡大問題との関連でその内容を分かり易く論じ、一般社会にも発信した。