表題番号:2013A-6015 日付:2014/04/04
研究課題国際知的財産権摩擦の長期循環の理論的・歴史的分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 遠矢 浩規
研究成果概要
本研究は、国際知的財産権摩擦の周期性に関する「理論」的な考察と、その「歴史」的な検証の2つからなる。

第一の理論的側面に関しては、「技術変化」(technological change=技術革新や技術移転)、「景気循環」(コンドラチェフの波)、「国際政治システムの長期変動」(覇権循環、中心・周辺構造の変容など)という3つの動態と「国際知的財産権摩擦」が連動しているという仮説を、国際政治学及び国際経済学の諸理論から演繹するものであり、その試みの一部は既に論文「技術変化と国際システムの動態(1)(2・完)」(『広島法学』第22巻第2号[1988年]、同・第24巻第2号[2000年])で行っているため、本研究では、その後の理論的動向や研究を踏まえて、より精緻な理論構築を目指すことを目的とした。
そして、今回は特に、従来のハイテク財と異なり、もはや有体財の取引(物販)を前提としないデジタル・コンテンツ財の市場が拡大するにつれ、国際知的財産権摩擦の周期性にどのような変化が起きるかを検討した。
得られた知見は次の通りである。
(1)コンテンツ産業は下記①~④により収穫逓増傾向が著しく超過利潤を生みやすい。①半永久的に費用逓減のため最少最適規模が存在せず世界需要が存在する限り輸出が可能(有体財はいずれ費用逓増に転じ、それ以上の輸出は利益を減少させる)、②山型のプロダクト・ライフ・サイクルがなく初めから大量・低価格で供給が可能であり、市場(国)ごとに超過利潤極大化の価格を設定できる、③モノとして流通しないので並行輸入がなく市場分割を行いやすい、④機能的価値より経験価値を消費する財のためコモディティ化しにくい(過剰性能に陥らない)。
(2)そして、この傾向ゆえに、次のことを指摘できる。①コンテンツ産業にはプロダクト・サイクル論が当てはまらず、「世界市場における価値の無形化」が進展するほど覇権循環論や世界システム論のロジックも当てはまらなくなる、②コンテンツ産品の価格は消費者の数や所得の関数であり、需要拡大のための製品差別化(デザイン、ブランディング)が競争優位の決め手となる(特許権よりも著作権・意匠権・商標権が重要)、③有体財(収穫逓減産業)に比較優位を持つ国Xとコンテンツ産業に比較優位を持つ国Yが貿易を行うとXからYへ国際所得移転が起きるため、W・B・アーサーが指摘する「マーシャルの世界」と「収穫逓増の世界」の「二相の世界」への分割に拍車がかかる(収穫逓減を前提とした従属論等では捉えることのできない新たな格差メカニズム)。

第二の歴史的検証に関しては、知的財産権の歴史(特に国際問題、国際紛争に関わるもの)に関する一次資料や二次文献の収集と吟味を継続して行うこととした。
この点に関しては、今回、特に、TPP交渉(環太平洋戦略的経済連携協定)における知的財産権分野交渉(デジタル・コンテンツ産業の知的財産権保護に関わる条項をめぐる対立)の情報収集を行った。その結果、米国が提出したTPP知的財産権条項案には、「モノからコンテンツへ」というTRIPsレジーム後の新たな知的財産権レジーム形成に向けた強い意志が反映されていることが確認された。

なお、上記の研究成果をもとに、「日本国際政治学会2013年度研究大会」(10月、新潟)で研究報告を行いフルペーパーを提出した。