表題番号:2013A-6013 日付:2014/04/01
研究課題ホーチミン(1890-1969)の「共和国」思想の現代ベトナム社会主義共和国への適応の可能性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 坪井 善明
研究成果概要
2013年9月と12月にハノイの人文社会科学アカデミーでDang Xuan Thanh教授(2013年10月までは北東アジア研究所副所長、11月からは
中国研究所所長)のチームと共同研究を行った。この間、1992年憲法の改正論議が続き、「2013年憲法」(2013年11月28日国会採択、2014年1月1日実施)として採択されたが、国民への意見開示を求めたところ、2700万通の意見が寄せられ、その多くにホーチミンが提唱した「ベトナム民主共和国」への国名変更を求める要請があった。つまり、ベトナム国民の中にも、現行の「ベトナム社会主義共和国」よりも、ホーチミンが構想した「民主共和国」の方が好ましいという意見があることが明らかになったのである。
 討論の主要な論点は、次の三つに絞られた。1.ホーチミンが構想した「共和国」(Republic)の内容を政治思想、比較政治論から
精査する、2.1945年9月2日の独立宣言から68年、ベトナム国民、特に政治的なリーダーや知識人が「共和国」をどのように受容してきたのか、3.今後のベトナムの政治体制の変革に、ホーチミンの「共和国」構想をどう生かすべきか。
 1.の論点に関して言えば、フランスや米国の「共和国」思想を、どのようにホーチミンが理解して、アジアの地でどのような政治体制を構築しようとしたのかというホーチミン思想の精査の側面と、アジアで「共和国」を掲げている中国、北朝鮮(朝鮮人民民主挙倭国)、シンガポール等の比較政治の観点から、アジア諸国での「共和国」の受容の仕方の比較研究の側面に分かれて、研究発表が行われた。
 2.の論点に関して言えば、憲法改正の軌跡をたどることで、ベトナムの国民が自国の政治体制の枠組みとしての「共和国」理解の
変遷をたどるというアプローチが紹介された。特に、グエン・シ・ズン国会事務局次長は、「単に皇帝(王)が統治するという中国から学んだ伝統的な王朝支配の構造から、皇帝を廃し人民が主体の政治体制に変わったという意味での「共和国」理解だけでなく、そのやり方で民主的な政治体制を作るという「民主」と「共和」を一体のものとして構想している「民主共和国」という構想こそホーチミンのものだ。というのも、当時の南ベトナムは単なる「ベトナム共和国」という国名でしかなかったので、インパクトが弱く、実質独裁体制になってしまった。」という指摘があった。
 3.の観点に関して言えば、市場経済を導入して、実質上「社会主義」が経済体制から変革していて、それを政治体制の平和的な変革に結び付けるためには、「共和国」の概念の方が「民主主義」よりもベトナムの文脈ではより適合的ではないかという論議がDang Xuan Thanh教授からなされた。しかし、問題は共産党の一党支配をどのように変革するのか、そのプロセスがまだよく見えないという指摘もあった。