表題番号:2013A-6002 日付:2014/03/21
研究課題東アジアにおける所得格差の世代間連鎖の実証研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 上田 貴子
研究成果概要
 本研究課題は、家計に対する調査の個票データを用いて、東アジア諸国における所得格差の世代間(親子間)の連鎖の程度を数量的に分析することを目的としている。まず、台湾についてPanel Study of Family Dynamics個票を使用して分析結果を得た。連鎖の程度は所得弾力性の推計によって測られ広く国際比較が行われているが、台湾の場合、男性で0.25-0.3程度、女性で0.4程度と推計された。これは、親の所得が2倍になると男性の場合で平均25-30%、女性の場合で40%程度高い所得が得られることを示している。弾力性が高いほど家計の経済状態の世代間連鎖度が高い、つまり所得階層が固定的であることを示しているが、台湾は日本や韓国と類似の水準であり、国際的に見て連鎖の程度は中程度と考えられる。ただし、女性の方が男性よりも連鎖の程度が高いという観点からは、英国や韓国と類似であるが、日本や米国とは逆になっている。本研究結果はワーキング・ペーパーにまとめ、さらに査読付き国際専門誌への掲載を目指して改訂中である。
 次に、中国についてChinese Household Income Project個票データを用いて基本分析をほぼ終えている。中国については地域間格差が大きいことや、共産党員かどうかが所得に影響することを考慮にいれて分析を進めた。その結果、男性の場合で0.3-0.5程度、女性の場合には0.5を超える弾力性が推計された。他の調査を用いた中国の先行研究では男女とも0.6以上の弾力性が推計されており、これよりは少し低めの結果であるが、それでも日韓台よりも連鎖度が高くなっている。男性で米国と同程度、女性では米国よりも連鎖度が高い。また、先行研究では対象が都市部に限定されているが、本課題では農村部と農村から都市への移住者についても分析を行った。その結果、女性の移住者の連鎖度が若干低めである他は、都市部と類似の連鎖度が得られた。本研究成果は今後、英語論文にまとめ、研究報告会等を経て査読付き国際専門誌へ投稿見込みである。さらに日本についてこれまで分析が行われていない慶應大学「日本家計パネル調査」第3回(2011年)調査個票データの使用申請を行いデータを入手済みであり、今後分析を進めていく準備済みである。