表題番号:2013A-073
日付:2014/04/11
研究課題運動パフォーマンスに及ぼす注視行動の効果に関する研究
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
---|---|---|---|
(代表者) | スポーツ科学学術院 | 教授 | 正木 宏明 |
- 研究成果概要
- 近年,アスリートの視線運動の使い方がスキルレベルによって異なることが注目されている。たとえば,ゴールシュート,射撃の激発,ゴルフパッティングなどでは,優秀なアスリートほど,標的を注視してから動作を開始するまでの時間が長いという。この注視時間はQuiet-eye (QE) periodと呼ばれており,これまで様々なスポーツ種目において,スキルレベルとQE時間との関係が実証されてきた。また熟練選手でも,成功時よりも失敗時にQE時間は短くなり,さらに心理的プレッシャーを受けてもQE時間は短くなる。そのため最近では,QEを長くするトレーニングが提唱されるようになり,そのトレーニング効果の検証が始まったところである。
本研究課題では,アーチェリーとアイスホッケーのアスリートからQE時間を測定した。先ず,アーチェリー選手のQEがスキルレベルによって異なるかについて検証した。次にアイスホッケー選手のシュート動作に注目し,2日間という短期間のQEトレーニングでもパフォーマンスが改善するかについて検証した。いずれもQEは現有のアイマークレコーダ(EMR-8ナック社製)を用いて計測した。
アーチェリー実験には大学生アーチェリー選手12名が参加した。全国大会出場経験の有無でスキルレベルを分けた。実験課題は30mのアーチェリー射撃であった。実験参加者はアイマークレコーダーを装着した状態で,プレッシャー無し条件下で12射,プレッシャー有り条件下で12射を遂行した。プレッシャーは10点獲得を強力に求めることと,1射毎に点数を読み上げることで操作した。QE時間と平均得点との相関関係を調べた結果,いずれの条件でも強い正の相関関係が認められただけでなく,プレッシャー無し条件(r= 0.77, p< .01)よりもプレッシャー条件のほうが相関係数は高値だった(r = 0.82, p< .01)。
アイスホッケー実験では,競技歴5年以上の男性選手10名が実験に参加した。5名をQEトレーニング群,5名をコントロール群に割り当てた。課題はゴールライン手前約10mのトップサークルからゴールに対してスライドシュートを打つことだった。実験は連続5日間行い,2日間のQEトレーニングを行った。第1日目にプレテスト,第4日目に保持テスト,第5日目にプレッシャーテストを実施した。これらのテストでは,ゴール左右のターゲットに対して10試行ずつシュートした。第2日目と第3日目のQEトレーニングでは,左右ターゲットに対して各20試行を1ブロックとし,3ブロックを遂行した。第5日目のプレッシャーテストでは,他者によってパフォーマンスが評価された。実験の結果,STAIの特性不安,状態不安ともに,群間及びテスト間で差はなかった。コントロール群のシュート決定率は保持テストで低下する傾向だったが,トレーニング群はシュート決定率を維持した。またQE時間は2日間のトレーニングでも延長する傾向であった。
これらの研究成果は現在,学術誌上での発表準備中にある。