表題番号:2013A-064 日付:2014/03/04
研究課題新規インスリンシグナル分子を標的とした老化疾患研究モデルマウス開発と分子病態解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 千葉 卓哉
研究成果概要
実験動物に対して与える餌の量を制限すること(カロリー制限)、およびインスリンシグナル系の減弱により、寿命の延長や老化関連疾患の発症が抑制されることが知られている。我々はこれまでに、脳の視床下部で高発現している新規遺伝子、WD repeat protein 6 (WDR6)が、インスリンシグナル系の分子として摂食行動やエネルギー代謝などに関連している可能性を明らかにした。本研究では、全身性および脳特異的WDR6ノックアウトマウスの作製を行った。また、得られたマウスの摂食行動など、表現型解析に関する基礎的な研究を行った。
 これまでに、Cre-loxPシステムをもちいたWDR6ノックインマウスを作製しており、当該キメラマウスをCreを全身性に発現するCAG-Creマウスと交配させ、ヘテロノックアウトマウスを作製した。その後、ヘテロ同士の交配によりホモノックアウトマウスを作製した。得られたマウスの遺伝子型の分離比は概ね野生型:ヘテロ:ホモ、1:2:1であり、メンデル遺伝の法則に従っていた。また、ホモ同士の交配によっても仔マウスが得られたことから、WDR6ノックアウトマウスは胎生致死でなく、また生殖細胞系にも異常が見られないことが示唆された。脳特異的WDR6ノックアウトマウスは、タモキシフェンによって神経細胞においてのみCreの発現が誘導されるNestin-CreERTマウスとの交配により行った。現在、ハウスの繁殖と交配を継続して行っている。
 全身性WDR6ノックアウトマウスの野生型、ヘテロ、ホモの遺伝子判定は、尾部から抽出したゲノムDNAをもちいて行った。得られたマウスの肝臓より、RNAを抽出し、WDR6の遺伝子発現をRT-PCR法により解析した。その結果、RNAレベルにおいても目的とした標的遺伝子組換えが起こっていることが示唆された。今後は、インスリン受容体基質-4(IRS-4)、およびliver kinase B1(LKB1)などの代謝関連タンパク質とWDR6の相互作用を、免疫沈降法をもちいて解析し、WDR6ノックアウトによるタンパク質-タンパク質間の結合への影響を解析する。現在までのところ、若齢においては遺伝子型による摂食行動に対する明確な違いは認められていない。今後も、これらのマウスの飼育を老齢まで継続するとともに、糖・脂質代謝の変化、さらに酸化ストレスなどに対する耐性等を解析する予定である。これらの研究を通じて、WDR6ノックアウトマウスを新たな老化疾患研究モデル動物として確立することを目指す。