表題番号:2013A-055 日付:2014/04/02
研究課題画像投射式卓上型上肢訓練装置IDATの機能向上と試用調査
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授(任期付) 松丸 隆文
研究成果概要
画像投射式卓上型上肢訓練装置IDAT-3のアンケート調査による評価 (2014年04月01日)

1. 目的

さまざまな年代の男女から次の3項目について評価を得ること.
(1) 操作性(使いやすさ,使い勝手,直感性など)
(2) 面白さ(楽しさ,充実感,達成感)
(3) 有用性(有効性,実用性,利便性)
また意見や所感を得ることで,現在のIDAT-3の欠点や不足を理解し,今後の性能の向上,新機能の開発の検討材料とすること.

2. 方法と手順 Method and procedure

次の2つの展示会にIDAT-3を出展した.
(1) 展示会1:北九州学術研究都市第13回産学連携フェア(http://fair.ksrp.or.jp/)
期日: 2013年10月23日(水)~10月25日(金) 10h00-17h00
場所:北九州学術研究都市 体育館
対象:専門家,職業人,学生,市民
(2) 展示会2:2013国際ロボット展(http://www.nikkan.co.jp/eve/irex/)
期日:2013年11月06日(水)~11月09日(土) 10h00-17h00
場所:東京国際展示場 東1・2・3ホール
対象:専門家,職業人,学生,市民

アンケートの実施手順は次のとおり:
1) 研究開発の背景と目的,IDATの構成と機能,を来訪者に説明し,デモンストレーションする.
2) 来訪者にトレーニングプログラム(モグラたたき,風船割り,さかな捕り)を体験してもらう.
3) 好きなだけ試してもらったのちに,アンケートへ記入してもらう.

アンケートの内容は次のとおり:
1. Gender: □male □female
2. Age: □-10s □20s □30s □40s □50s □60s □70s □80s-
3. Country: □Japan □Other ( )
4. User-friendliness: (good)9・8・7・6・5(average)・4・3・2・1(bad)
Comment: ( )
5. Amusingness: (good)9・8・7・6・5(average)・4・3・2・1(bad)
Comment: ( )
6. Usefulness: (good)9・8・7・6・5(average)・4・3・2・1.(bad)
Comment: ( )
7. Feedback and opinions: ( )
3つの評価項目によるIDAD-3の評価は,相対的な値ではなく主観的な絶対的な値でお願いした.

合計7日間の展示より88通の回答を得た.
性別では男性67名,女性21名.年齢別では10代以下40名,20代30名,30代4名,40代4名,50代以上6名となった.

3. 評価値

3つの評価項目における平均値(標準偏差)は次のとおり:
(1) 操作性: 10代以下7.25(1.80),20代7.23(1.45),30代7.38(1.32),40代7.75(0.83),50代9.00(0.00),60代6.33(0.94),70代7.00(0.00),男性7.28(1.54),女性7.29(1.72),合計7.28(1.59)
(2) 面白さ: 10代以下8.25(1.34),20代7.93(1.18),30代8.25(0.97),40代6.75(1.09),50代9.00(0.00),60代5.67(0.94),70代7.00(0.00),男性7.88(1.37),女性8.33(1.17),合計7.99(1.34)
(3) 有用性: 10代以下7.60(1.50),20代7.67(1.45),30代7.38(1.32),40代8.00(0.71),50代9.00(0.00),60代8.33(0.94),70代7.00(0.00),男性7.60(1.51),女性7.95(1.27),合計7.67(1.46)

すべての回答者による平均値は,3つの評価項目(操作性,面白さ,有用性)においてすべて,7と8の間にある.
“操作性”が,3項目の中で最小の平均値(7.28)と最大の標準偏差(1.59)を得た.
“面白さ”が,3項目の中で最大の平均値(7.99)と最小の標準偏差(1.34)を得た.


女性の回答者が少ないため,男女間の結果の差異の検討はむずかしい.
そこで以下では,年齢による結果の差異を検討する.

3.1 操作性

年齢を若年(-10s),壮年(20s-40s),後年(50s-)の3群に分けてまとめた得点はそれぞれ7.25(1.80),7.31(1.39),7.33(1.37)となる.
年齢群間での得点の有意な差は認められない.
すなわち,どの年齢群でもほぼ同じ得点(7.25, 7.31, 7.33)で,IDATの操作感は年齢による影響は小さい.
しかし他の2項目に比べてあまり高く評価されていない.
問題点はあとで回答者からの意見に基づいて検討する.

3.2 面白さ

年齢を若年(-10s),壮年(20s-40s),後年(50s-)の3群に分けてまとめた得点はそれぞれ8.25(1.34),7.89(1.20),7.00(1.63)となる.
年齢群間での得点の有意な差は認められない.
しかし,年齢が上がると面白さの得点が下がる傾向がある.
若年者による得点は8.25と高く,興味を引くことができたと考えられる.
ゲームのようなトレーニング内容により,若者の関心を得ることが容易だが,高齢者を引き付けるのはそれほど簡単ではない.

3.3 有用性

年齢を若年(-10s),壮年(20s-40s),後年(50s-)の3群に分けてまとめた得点はそれぞれ7.60(1.50),7.64(1.46),8.33(0.94)となる.
年齢群間での得点の有意な差は認められない.
しかし,年齢が上がると有用性を評価する傾向がある.
これは,このアンケート調査において回答者の一人一人にIDAT訓練のねらいである手と眼の協調訓練の重要性を説明しているからだと思われる.
高齢者は身体および認知機能の低下にともなう危機意識をもっており,このIDAT訓練の意義を認識してもらいやすい.

4. 意見や所感

意見や所感に寄せられたコメントを項目に分けて紹介し考察する.

4.1 表示
・もぐらは,平面的な絵が出てくるより立体的なのが出てきたら面白いかも.あとは壁に映してみるとか.
・投影面が斜面のときはどうなるでしょう?

リハビリテーション訓練装置の映像にどの程度の臨場感が必要かは,よく検討するべきである.
一方,家庭用ゲーム機を応用対象としたリアルタイム3次元コンピュータグラフィックスを実現するLSIの性能は向上し続けている.
コスト・パフォーマンスを考慮しながら,高精細で高品質の3次元画像を導入することも将来的にはあり得る.
また本体が平面に垂直に設置されていれば,その面が傾いていてもその動作に問題はない.
机の上でなく壁での実施も,機器構成の工夫により可能になる.

4.2 反応感度
・タッチ反応が少し遅い.
・反応が鈍い.
・反応速度を向上してほしい.
・タイムラグが気になる.

障害物を検知するための探索区域は,作業面から約1cm離れた平面上である.
したがって,システムは面に触れていない手にも反応する.
これは反応感度に対してよく働くはずであるが,確かに応答時間差を感じる.
これには,ハードウェアとソフトウェアとの両面で原因が考えられる.
まず信号伝達である:動く物体を検出するにはセンサ情報の伝達速度が遅い.
センサデータを取得するサイクルタイムを短縮するために,コンピュータの処理能力を含めた見直しが必要である.
次にプログラミングである:当たり判定の計算に時間がかかりすぎる.
アルゴリズムを見直して最適化する必要がある.

4.3 判定精度
・当たり判定の精度を良くして欲しい.
・連続的な当たり判定が遅いときがある.

ある程度の反応感度を得るために,障害物の正確な大きさや形状を認識していない.
手の大きさ(子供/大人,人種,など)だけでなく,手の状態(握った手,開いた手,など)やトイハンマの使用などにより,算出された障害物の位置が多少異なる.
あらゆる状況により正確に対応するためには,訓練をはじめる前に訓練者の叩いた状態を計測して補正値を算出しておくなどの方法を考える必要がある.

4.4. 小型化・低コスト化
・小型化が楽しみにしている.
・コストが高い.

現在は研究開発のために汎用コンピュータを使っている.
しかし商品化にはワンチップマイクロコンピュータを使用して本体と一体化することもできる.
また,高価なレーザレンジファインダ(URG)を置き換えて同じ機能を提供する低価格のRGB-Dセンサについても別途検討している.

4.5. 全体的な意見
多くの肯定的で励みになる回答を得た.
・これなら楽しくリハビリが進むと思いました.
・操作しやすい,いろんな人が楽しめる,ぜひまたやりたい.
・リハビリに最も良い,楽しさを感じる,実用性あり.
・未来の発展を期待しています.

このように,多くの来場者は我々の研究開発の重要性と必要性を認め,高く評価してくれた.
しかし同時に,改善の余地があることを私たちに知らせる貴重な意見を得ることができた.
これらの提言に基づいて,さらにより良いシステムにするべく研究を続ける.